セックスを強要する美しすぎる「発光女」の生霊 ― 川奈まり子の実話怪談『いきすだま ~追う女~』

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 先輩からマミに電話を入れてもらったのは、金曜の夜のことだった。

 この日、マミの携帯電話の電話番号を会社の方では着信拒否にしてもらった。前日から2、3時間おきに電話を掛けてきていたので、上司と相談して、そうしてもらったのだ。

 仕事を終えるとすぐ、先輩のバーに駆けつけた。マミに電話してもらうにあたり、自分も立ち会うべきだと考えていたのだが……。

「さっき彼女に連絡したよ。おまえが目の前におると、かえってやりづらいような気がしたんや」
「すみません。……で、どうでした?」
「うん。おまえと話させろの一点張りで、こっちの言うことを聞かないから、最後は時刻と待ち合わせ場所を繰り返し伝えて、切るしかあらへんかった。明日でいいよな? こういうことははよ済ませるに限ると思うんや」

 人目がある所がいいからと、場所は駅前のファミリーレストラン、時刻はランチタイムをあえて選んで席を予約したということだった。

 土曜日だったせいか、先輩に指示されて5分ほど遅れて約束のファミレスに着いてみたところ、店内は満席だった。親子連れや学生風のグループ、女性同士の2人組が多い。

 明るいBGMが流れ、食べ物の匂いが充満する店の奥のソファ席で、ハンカチに顔を埋めたマミと、いつもより緊張した面持ちの先輩が待っていた。

「……お待たせ」

 ビクビクしながら先輩の隣に腰かけると、マミが「酷いよ」とハンカチの中から涙声で訴えた。

セックスを強要する美しすぎる「発光女」の生霊 ― 川奈まり子の実話怪談『いきすだま ~追う女~』の画像6
画像は「Getty Images」より引用

「いきなり出ていくなんて! すっごく心配したんだよ? 熱があったのに、起き出して平気なの?」

 病気になったのはおまえのせいや、と、言い返したくてたまらないのをグッとこらえて、「もう治った」とだけ答えた。

 そこですかさず先輩が、マミをなだめにかかった。

「こいつも急に出ていったのは男らしくなかったと思います。ただ、さっき話したとおり、もうどうしてもあなたとはやっていけなくて、限界やったんやそうですわ。そんな勝手なことを言われても……って思いますよね? でも、こいつはあなたとは別れると決意しているそうやから、無理に引き留めても……」
「引き留めるってなんの話ですか? 私とタカシくんは好き同士なんだから! ねえ、タカシくんは帰ってくるよねぇ?」

 ハンカチを振り捨てて、痛々しいつくり笑いで貴司さんの顔を覗き込んできた、その瞳が、泣いていたとは思えないほど白目が澄んで美しかった。

 化粧したばかりのような、人形じみた綺麗さのある顔だ。相変わらず、テレビタレントのように可愛らしい。

 そのことに、貴司さんは心の底からゾッとした。

 話し合いの席で、先輩が貴司さんを「こいつ」呼ばわりしたのはわざとだった。事前に打ち合わせをしたわけではなかったが、すぐに貴司さんは意図してやっていることだと察知して、調子を合わせた。

「こういうやり方はないだろうと先輩に叱られて、今は反省しとる。でも、すまん。マミとは、どうしても合えへん。急に出ていったのは悪かったけど、もう一緒に暮らせへん。別れよう」
「知らんけど、マンションはこいつの名義で借りとるんやって? 解約の手続きを進める間に引っ越し先を決めてください。家電や大きな家具は、彼女が持っていってくれてかめへんよな? そのぐらいのことはしてあげんと、人としてどうかと思うぞ?」

 これも聞いていなかったが、マミと別れられさえすれば、家財道具など少しも惜しくない。

「うん、もちろんだよ。欲しいものは全部あげるから、許してほしい」

 マミは、「家具なんか、いらない」と頬を膨らませてそっぽを向いてみせた。

 そう言えば、拗ねたとき、マミはよくこういう態度を取った。以前は可愛いと思っていたが、今あらためて見ると芝居がかってわざとらしい。

 キュートな女の子はこうあるべきという理想の型がマミの中にあって、状況に合わせて型を再現しているだけなのでは……。

 今度は髪の毛の先を人差し指にクルクルと巻きつけながら、眉を八の字して悲しそうな顔つきになり、上目遣いに、先輩の反応を観察している。

 ちゃんと哀れに思ってくれているかどうか、見極めながら、演技の匙加減をしているんじゃなかろうか……。

「私が欲しいのはタカシくんだけなんですぅ。彼も私のことが好きなはずだから、相思相愛なのに、なんで応援してくれないんですか?」

 先輩は動じなかった。

「本当に好きな者同士なら、いくらでも応援しますよ」と、爽やかに受けて立ち、「しかし、こいつは、もう気持ちが離れてもぅたそうなんや。価値のわからん男と思って、こんな男はキッパリほかしてしまって、新しい恋人を探した方がええ」と続けた。

 マミはいくらか鼻白んだようすで、ソファに背をつけて先輩と貴司さんを見比べて、「2人とも私の気持ちがわからないのね」と呟いた。

「他の人は要らない。タカシくん、帰ってこなかったら大変だよ?」<

 脅すつもりか、と、怯えながら貴司さんは訊き返した。

「大変て、何が?」

 マミはそれには答えず、「無理なんです」と先輩に告げた。

「貴司くんは、私と別れられません!」
「うん、そう思いたいよね? でも客観的には、すでに別れてますよ? マンションから退去する準備を進めてください。何かあったら僕に連絡して。僕からこいつに伝えますから」

 今日はこんなところで、と、先輩が伝票を掴んで立ちあがった。

 ……と、マミは急に携帯電話を弄りだした。メールを書きはじめたようだった。

「では、僕たちは先に失礼します」

 先輩の声が聞こえなかったかのように、マミは携帯に集中していた。

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画像は「Getty Images」より引用

 先輩の後ろについて店から出た途端、貴司さんの携帯電話に着信があった。

 マミからのメールで、「タカシくんが帰ってきたら……をしてあげる」「……をしてほしい」などと、淫靡な妄想が書き連ねられていた。

 文面が目に入った瞬間、羞恥心よりも怒りでカッと頬が熱くなった。

 なんという無礼な、人の心のわからない女なのか。

 先輩が「何?」と訊いてきたので、黙って液晶画面を見せた。

「うわ! ヤバい女やな! 絶対に返信しちゃあかんで? メールは着信拒否にした方がええ。電話もや。とりあえず、急いでこの場を離れよう」

 2人で足早に店から遠ざかり、その後、駅で先輩と別れたのだが、後ろからマミがつけてきていそうな気がして、途中、貴司さんは何度も振り返らずにはいられなかった。

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