【世田谷一家殺害事件20年目の真実】犯人は朝まで家にいなかった可能性、致命的な捜査ミス…最恐の未解決事件「迷宮の歪んだ真実」(前編)

■初動捜査のまずさ、犯人の逃走時間の見立てミス

 事件発生当初、警視庁捜査一課内部では「犯人はすぐに捕まえられるだろう」という楽観的な見方が強かった、と言われている。それは、他の事件と比較しても、現場に残された遺留品や遺留物など、犯人に直結する証拠の多さが群を抜いていたからだ。

 一般的に、殺人事件のほとんどは発生の直後に解決することが多い。大抵の事件の容疑者は、被害者の家族や友人など、何らかのつながりがあるからだ。

 世田谷一家殺害事件では、それに加えて、現場から犯人のDNAや指紋も採取されていた。結果論だが、それがかえって仇になってしまったのかもしれない。なぜなら、そうした背景もあって、事件発生直後の聞き込みなどが十分になされたとは言えなかったからだ。

警察が絞り込んだ犯人像。

 例えば、現場近くにあった医療施設や現場周辺で行われていた工事関係者らへの本格的な聞き込みも、事件が迷宮入りしてから行われたため、十分なものができる状況ではなかったという。

 そうしたことから、いまだに犯人が宮澤さん一家と面識のある「勘」だったのか、全く無関係で宮澤さん宅に押し入った「流し」だったかのさえ、よく分かっていないのだ。

 その他にも、第一発見時、宮澤さん宅の電気が消灯していたかどうかさえ、未だに判然としていない。犯人の侵入経路についても、風呂場からの侵入説が有力なだけで、特定するまでには至っていない。

 後になって、捜査における初動の見立てが誤りだった可能性が浮上したこともある。犯人の逃走時間がそうだ。当初、犯人は翌31日の朝方まで事件現場に居座っていたと推測されていたが、事件発生から14年が経過した2014年、別の疑いが出てきたのだ。

 これまで多くのメディアでも報じられてきたように、犯行後、犯人が朝方まで居座っていた根拠となったのが、PCの起動履歴であった。住宅1階にあったパソコンは、31日午前1時18分と午前10時ごろの2回、起動していた。そのため、警視庁は「犯人は朝まで宮沢さん宅にいた」と見ていたのだ。

 だが、後々の捜査で、正確にPCが起動していたのは、31日午前1時18分から5分18秒の4分間だけと判明(ちなみに、この4分間内にフォルダを作成したり、劇団四季のホームページにアクセスしていたことが判明している)。それが再び起動したのが、おおよそ9時間後となる午前10時だが、その際には、一つのウェブサイトを表示したまま移動はしておらず、マウスは机から椅子の上に落下した状態だった。

 第一発見者である泰子さんのお母さんが現場の部屋に入ったとみられているのが午前10時ごろ。それらを考慮し直し、警視庁は「午前10時のPCの起動は、泰子さんのお母さんが誤ってマウスを落とし、その落下によって生じた誤作動の可能性がある」という結論に至ったのだ。

 ここに至るまでに、14年の歳月が必要とされたのだ。どれだけ捜査が難航しているか、この一点だけを見ても理解できるだろう。

 そして現在では、犯人は31日未明まで宮澤さん宅に残っていたものの、朝になる前には現場から逃走したと考えられている。ただ、侵入及び逃走経路は断定しきれておらず、完全な確証にまでは辿りついていない。

 こうした事情を鑑みれば、“犯人を特定できた”と主張する怪しげなジャーナリストたちの言説が、いかに薄っぺらいものかが窺い知れるだろう。有力な容疑者すら、捜査線上に浮上していないのだ。それだけに、少しでも疑いのある人物がいれば、警視庁は黙っていない。その人物を徹底的に洗い上げ、白黒ハッキリ答えを出しているだろう。

中編に続く

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文=沖田臥竜

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。X(旧Twitter):@pinlkiai

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