コロナ対策でマスクを着ける法曹人に正義を執行できるのか? 東大教授が科学的真理を解説!

 念のため、新型コロナが終息して感染者がゼロになった場合を考えてみましょうか。

 その時点で1億人にPCR検査をすると、偽陰性はゼロ人、偽陽性は依然として100万人。つまり、感染者が日本全国に10万人なのかそれともゼロなのか、区別できません。真陽性も含めた陽性者は、それぞれ107万人と100万人という差が理論的には出るものの、7万程度は検査環境による誤差の範囲内ですから、感染者が10万人ではなくゼロだと断定する根拠にならないのです。

 中国の武漢で5月14日から、6歳以上の全住民990万人を対象にしたPCR検査が始められ、6月1日に終了しました。無症状陽性者300人が確認され、その濃厚接触者1174人も合わせて隔離したとのこと。そんな大規模検査に意味があったとは思えません[2]

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画像は「getty images」より

 結局、大勢に検査をして元が取れるのは、感染者が高率で潜んでいるとわかっている場合に限られます。感染者が多ければ、陽性者の総数が偽陽性の理論値よりハッキリ多くなり、感染者がたくさんいると結論できるからです。ただ、それほどに感染者が多いなら、死亡者も多くなっているはず。ところが日本では、超過死亡[3]がプラスになっていない。つまり新型コロナによる死亡者は、厚労省が公式発表している「数百人」を大幅に上回ることはない。よって、感染者も多くない。だからPCR検査を大規模に実施してはいけない。

 もちろん、死亡者が少ないからといって、感染が広まっていない保証はありません。抗体検査をすれば[4]、過去に感染していた人の数がわかります。それで万一、累計感染者数が公表数(1万数千人)の100倍、1000倍も多かったとしたら? その場合、covid-19の致死率・重症化率は、想定よりはるかに小さかったことになります。大騒ぎするに値しない病気だということです。

 いずれにせよ、「感染者数」に一喜一憂するのは無意味なのでした。人間がウイルスに感染するのは当り前なのだから。これから第2波、第3波がくるのはほぼ確実ですが、そのたびに大げさな非常事態宣言、自粛要請、自粛警察暗躍、という流れはごめんこうむりたいですね。いったん始めた新型コロナ対策が「間違っていた」と認めるのは政府として恥でしょうが、だからといって路線変更しないのは理不尽というものでしょう。

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三浦俊彦教授

 いや、そうはいっても行政の現実としては、怖がり屋の人々が形作る世論・同調圧力に逆らうのは至難かもしれません。政治家は次の選挙で勝たなきゃならないし。これほど注目されてしまった新型コロナで万一感染爆発を起こそうものなら、責任の問われ方が半端ないでしょう。経済など他方面で何十万人の死を未然に防いだとしても、新型コロナで何万の感染者を出したらすべてパア。世の中が理性より感情で動いており、人の死に方の重みに格差があり、人命よりトレンドが優先される以上、政治家に「合理的であれ」と頼んでも無理かもしれませんね

 だからこそ、せめて司法はしっかりしてもらいたい。裁判では「感情へのアピール」は極力抑えていただきたい。科学的証拠に基づき、恐れるべきことだけを恐れ、冷静に動いてもらいたい。厳粛なる法廷で殊勝げにマスクをしている裁判官、検察官、弁護人がいたら、「忖度と世評に動かされる法曹人」として皆さん、名前を憶えておきましょう

[2] 300人という無症状陽性者の少なさも疑問。かりに特異度が99.9%だとしても、1万人程度の無症状偽陽性が出るはず。偽陽性を減らすために再検査を繰り返したとすれば、逆に偽陰性を増やし、136億円かけた検査の意味が失われる。
[3] 例年の同時期と比べた死亡者数の増減。国立感染症研究所のデータはhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2112-idsc/jinsoku/1847-flu-jinsoku-2.html
[4] 東京都が行なった抗体検査では、都民の0.6%が陽性。ただしPCR検査と同様、抗体検査も精度に問題があり、新型コロナが入ってきていないはずの2019年1~3月に採取した500検体においても、都民の0.6%が陽性という結果になった。

文=三浦俊彦

1959年生まれ。東京大学総合文化研究科博士課程単位取得退学。現在、東京大学文学部教授。専門は、美学・分析哲学。和洋女子大学名誉教授。著書に『バートランド・ラッセル 反核の論理学者:私は如何にして水爆を愛するのをやめたか』 (学芸みらい社、2019年)、『エンドレスエイトの驚愕: ハルヒ@人間原理を考える』(春秋社、2018年)、『改訂版 可能世界の哲学――「存在」と「自己」を考える』(二見文庫、2017年)など。
Twitter:@tmiura_bot

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