「日本学術会議の任命拒否」批判するべきはそこじゃない! 本当の問題は●●だ! (東大教授・三浦俊彦)

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画像は「getty images」より

 しかし矛盾が疑われる点はもう一つありました。1983年の日本学術会議法改正で「首相による任命制」となったとき、政治介入を懸念する声に直面して、当時の中曽根首相が国会で「形式的任命にすぎません」(5月12日)と答弁。総理府総務長官も「推薦をしていただいた者は拒否はしない」(11月24日)と念押ししたのでした。

 しかしこれは、次のことを意味しています。「形だけの任命を世論が求めるのであれば、政府はそのとおりにしましょう。憲法第十五条『公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である』に反しませんから」。国民固有の権利をなぜか使わない権利を主張した世論を政府が代表し、当面、形式的任命として運用する(介入度ゼロに設定しておく)と明言したまでです。

 しかし本来、総理大臣は国民の代表として、公務員たる日本学術会議会員の選定に一般的介入をせねばならない。一般的とは、ゼロという特殊な値ではなく任意のプラスの値です。だから、社会情勢が変わって国民の潜在的要求が変われば、介入の度合いをゼロからプラスに戻すのはごく自然なことです。「法解釈の変更」ではなく、「字義通りに読んだ条文を運用する仕方の変更」にすぎません[1]

 逆に考えてみますか。政府機関の中に、政府の統制の及ばない勢力が存在したらどうでしょう。戦前に軍人が政府を操ったような事態になりかねません。国民主権を守るためには、官僚も検察官も学者も、つまり国民の選挙で選ばれていない権力者はすべて、国民の代表つまり政府によってチェックされねばならない[2]。民主主義の基本です。

 しかし内閣記者会のインタビューで菅首相が答えたところでは、105名の名簿は見ないまま99名任命の決済をしたと。これでは首相自身が任命したことにならないではないか。ただ、その種の批判も決定打になりえません。首相の承認なしにすべてが決定されたなんてありえないのだから。手続きの詳細にツッコミを入れても、ラチが明かないでしょう[3]

[1] ちなみに「法解釈を変えた」のだとしても、「中曽根政権の解釈が間違っていた」と菅政権は主張することができる。
[2] 5月8日に国会に提出された検察庁法改正案に対し、「司法権の独立の侵害だ」と抗議する世論が盛り上がったが、その抗議が的外れであった理由はこれである。
[3] 10月13日、15日の第4回、第5回野党合同ヒアリングは、もっぱらこの問題に対する非効率的な追及に終始してしまった。

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