マスコミの脅迫じみた「LGBTQ+キャンペーン」に海外のネット民もうんざり →「スーパーセクシュアル#」誕生へ…その裏側(東大教授)

 思えばLGBTQ+コミュニティ自身が、当初から、スーパーバイセクシュアルの参加を認めていた。バイセクシュアル(両性愛)とパンセクシュアル(全性愛)とを分けてアピールしていたからだ。いまいちわかりづらかったバイとパンの違いは――バイはスーパーバイセクシュアル、パンはスーパーでないバイセクシュアルのことだったのだ。そう理解すれば腑に落ちるではないか。

 というわけで、スーパーセクシュアルであること自体は、決して差別主義者であることを意味しない。ただし、わざわざ「スーパーストレートです」「スーパーゲイです」などと公言して回るのは、LGBTQ+をもってLGBTQ+を制する作戦というか、狡猾な攻撃のように映るかもしれない。

 そのような「見かけのトランスフォビア」が欧米で目立ち始めた理由は、マスコミと教育界からの脅迫じみたキャンペーンに一般市民がうんざりしてきたからである。アメリカの人権NGO「ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)」が報道機関向けに公表しているガイドライン8項目があるが、その第7項を見よう。

トランス男性・トランス女性を、「本当の」あるいは「生物学的な」男性、女性と対比させるのを控えること。それは誤った比較だ。トランスジェンダーの人々の性自認は真実である。比較枠組みを用いると、トランスジェンダーの人々が偽物であるとか対等以下であるとかいった不正確な見方が促されてしまう。 [7]

 生物学的男女とトランス男女の対比が誤りなら、各人はトイレでもスポーツでも合コンでも性自認どおりに扱われるべきではあろう。国連の機関であるUNAIDSは2019年、差別ゼロデイのキャンペーンポスターを世界中のメディアに流した。

「彼女がトランスジェンダーだとしてもなお愛し続けますか? 性自認は差別の理由にはなりません」

 国連が伝えている趣旨は何か? そう、性自認は性的指向に優先する、ということ。付き合ってきた女性に「元男なんです」と言われたとき、別れを告げたら差別になる、と国連は指導しているのである。部屋に来たデリヘル嬢にペニスがあるとわかったとき、それだけを理由にチェンジを要求するのは不当だと言っているのだ。

 男女平等ならぬ「ジェンダー平等」の倫理が行き届いた社会では、シスとトランスがあらゆる場で同等の権利を持つ。そうした中で個々人が性的自由を守ろうとしたら、お見合いや合コンの自己紹介で「僕の性的指向はスーパーストレートです」とはっきりカミングアウトしておくこと、それだけがせめてもの護身の策になりうるだろう。

[7] https://www.hrc.org/resources/reporting-about-transgender-people-read-this

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文=三浦俊彦

1959年生まれ。東京大学総合文化研究科博士課程単位取得退学。現在、東京大学文学部教授。専門は、美学・分析哲学。和洋女子大学名誉教授。著書に『バートランド・ラッセル 反核の論理学者:私は如何にして水爆を愛するのをやめたか』 (学芸みらい社、2019年)、『エンドレスエイトの驚愕: ハルヒ@人間原理を考える』(春秋社、2018年)、『改訂版 可能世界の哲学――「存在」と「自己」を考える』(二見文庫、2017年)など。
Twitter:@tmiura_bot

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