性器図鑑、変態性欲ノ心理、100年前のスパンキング写真集… 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本

藤井:そうです。ちなみに、『Cent photographies choisies dans la série Deux mille photographies du sexe d’une femme』は今でこそ普通に輸入できますが、完全に女性器が露出しているため、かつては正規ルートでは輸入できず、長らく伝説の写真集となっていました。過去には、アンリ・マッケローニの展覧会を開催した、アート・スペース・美蕾樹の『アンリ・マッケローニ作品集』を見るほかありませんでした。

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『Phallological Museum』(Lit Verlag)

――文字通り伝説の写真集ですね。

藤井:人間だけではなく、動物の性器についての書籍もあります。『Phallological Museum』には、アイスランドペニス博物館のコレクションの写真が収められています。英語の読み物で図版はほとんど白黒ですが、ホルマリンにつけられたいろんな動物のペニスから、ペニスを模したものにランプシェードがついた照明まで、さまざまなペニスが収録されています。

ナチス政権下のドイツで撮られたポルノグラフィ

藤井:以前「サイゾー」でも紹介しましたが、『HEADSHOTS』は女性カメラマンが撮影した、「射精したときの男性の顔写真」を集めた写真集です。女性のお客さんがこの本を読みながら、ゲラゲラ笑っているのが、ゲンシシャの日常的な風景です。

――なんというか、男子校の放課後みたいですね。

藤井:若い女性のお客さんたちは、こういった本を読みたくて当店に訪れているわけですからね。以前、やはり女性のお客さんから「男性同士がセックスしている写真集が見たい」と言われたので探してみたところ、実際にそのような写真集はありましたが、10万円を超えるプレミア価格がついていました。

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『HEADSHOTS』(Stop Over Press)

――お客さんからのリクエストを聞いて、藤井さんが仕入れる本を探すパターンもあるんですね。

藤井:ご要望があれば。特に性に関してはさまざまな嗜好がありますからね。このお店をやっていると、多様性というのは非常に大事だということを考えさせられます。

――そして、その需要に応えてくれる本も、この広い世界を探せばあるということですね。海外には昔からそのような特殊な嗜好の写真集があったのでしょうか?

藤井:『Jeux De Dames Cruelles 1850-1960』は1900年頃の「スパンキング写真」を集めた、出版社・Taschen(タッシェン)から出た書籍で、写真コレクターであるセルジュ・ナザリエフが編集したものです。女性が女性のお尻を叩く写真がひたすら載っています。かつて男女のポルノグラフィの規制が厳しい時代に、そうした規制を回避するために、女性同士のポルノグラフィのような写真が多く撮られていたようです。

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『Private Pornography in the Third Reich』(Taschen)

――スパンキングもモノクロ写真だと、なんだか「治療」の様子にも見えますが、普通にエロいことをしているんですよね。

藤井:『Private Pornography in the Third Reich』は、題名通り第三帝国時代のドイツのポルノグラフィを集めた一冊です。諸説ありますが、ナチス・ドイツは健康な肉体を賛美し、当時のドイツは性に対して開放的だったという話があります。同書には女性が3人で交わる写真も載っています。

――乱交ですね。

藤井:先ほどと同じく出版社・Taschen(タッシェン)から出された『Forbidden Erotica』という写真集もおすすめです。ニューヨークのブルックリンに捨てられていた、ポルノ写真の山と出会ったことをきっかけに、エロティックな写真を収集し始めたマーク・ローテンバーグのコレクションを収録しています。100年ほど前のポルノグラフィが多数収録されており、性器も無修正です。

――モノクロでもモザイク処理がされていないポルノグラフィは結構エグいですね。でも、日本の成人向けコンテンツではおなじみのモザイク修正というのは、世界的に見ると特殊なガラパゴス文化なのでしょうね。

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『変態性慾心理』(大日本文明協会)

藤井:同じく約100年前、大正2年の日本では、特殊性癖の本が出版されています。それが『変態性慾心理』(大日本文明協会)です。こちらもお買い上げいただいたので、今は手元にありませんが、同書は明治時代にサディズム/マゾヒズムの名付け親である精神科医クラフト・エビングが書いたもので、この本をきっかけに日本では「変態性欲」ブームが起こったといわれています。

――とんでもない本ですね(笑)。ちなみに、2002年に原書房から特殊翻訳家・柳下毅一郎氏が訳した復刻版が出ています。

藤井:その界隈では有名な一冊です。当然、同時期に生きていた江戸川乱歩は読んでいただろうと推測されますし、谷崎潤一郎も自身の小説「饒太郎」に、同書を読んで自分と同じような性癖の人がいると知ってショックを受けるキャラクターを登場させています。同書によって性的なニュアンスとしての“ヘンタイ”が広まったともいわれています。

――今では「Hentai」も世界に通用する言葉ですからね。性癖の数だけ関連する書籍はたくさんあるようですから、「性」に関するコレクションは尽きることがなさそうです。

書肆ゲンシシャ 大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1000円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在してそれらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp

文=伊藤綾

1988年生まれ道東出身。いろんな識者にお話うかがったり、イベントお邪魔したりするのが好き。サイゾーやSPA!、マイナビニュース、キャリコネニュース等で執筆中。友人や知らない人と毎月1日に映画を観る会(@tsuitachiii)を開催

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