現代に生きる「四足歩行」の家族の謎

画像は「 60 Minutes Australia / YouTube」より

 科学者たちの間で長年、進化論的な観点から注目を集めてきた家族が存在する。トルコの僻村で発見されたウラス家は、四足歩行をする成人が複数いることで科学界の注目を集めている。2000年代初頭、ウラス家の兄弟姉妹5人に関する科学論文が発表され、その異常な熊のような歩き方が専門家の間で議論を呼んだ。

 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の進化心理学者、ニコラス・ハンフリー教授は、この特異な家族に会うためトルコを訪れた。ウラス家の両親には18人もの子供がいたが、そのうち6人だけが四足歩行をしていた。これは現代の成人人類では前例のない現象である。

 ハンフリー教授は「現代人が動物の状態に戻るなんて、どんな突拍子もない科学的空想でも想像できなかった」とオーストラリアのドキュメンタリー番組で語っている。人間を他の動物と区別する最も重要な特徴は二足歩行であり、頭を高く上げて歩くことだという。「もちろん、言語やその他の要素も重要だが、我々が動物界の他の種と異なると感じるうえで、二足歩行は非常に重要だ。この人々はその境界線を越えている」と付け加えた。

 ウラス家の四足歩行の正確な原因は未だ解明されていない。ある専門家は「過去300万年の進化を覆す」遺伝的問題が原因だと示唆する一方で、他の専門家は直立歩行に特定の「遺伝子」があるという考えを否定し、別の要因が関与していると主張している。

 ハンフリー教授は、影響を受けた兄弟姉妹(現在22歳から38歳の5人が生存)全員が特定の形の脳損傷を患っていることを指摘した。MRIスキャンでは、小脳虫部と呼ばれる脳の一部が萎縮していることが明らかになった。しかし、教授はこれだけでは「四足歩行を説明できない」と述べている。「小脳が損傷している他の子供たち、さらには小脳がない子供たちでさえ、直立歩行ができる」と説明した。

画像は「 60 Minutes Australia / YouTube」より

 また、ウラス家の四足歩行は、最も近縁な動物であるチンパンジーやゴリラとも異なる点がある。これらの霊長類が指の関節で歩くのに対し、ウラス家の子どもたちは手のひらを使い、手首に体重をかけながら指を地面から浮かせて歩く。「チンパンジーはそのように歩くと指を傷めてしまう」とハンフリー教授は2006年のBBCニュースのインタビューで述べている。「この子たちは指を非常に器用に保っており、例えば家族の女の子たちは、かぎ針編みや刺繍ができる」と付け加えた。

 ハンフリー教授は、これが我々の直接の祖先の歩き方だった可能性があると仮説を立てている。指の器用さを保つことで、初期の祖先は道具を操ることができ、それが人間の身体と知性の進化に重要な役割を果たしたという。

「この家族に見られるものが、チンパンジーのように歩いていなかった時代、つまり木から降りて完全な二足歩行になる間の重要な段階に対応している可能性がある」とハンフリー教授は述べている。

 また、ウラス家の子供たちの四足歩行にはより基本的な説明もあるという。彼らは単に二足歩行を奨励されなかっただけかもしれない。彼らが育った村には地域の保健サービスがなく、障害のある子供たちが赤ちゃんの時の這い這い(手と膝による)から完全な直立歩行への移行を支援してくれる環境がなかった。

 ハンフリー教授がウラス家に歩行器を提供したところ、数時間以内に「驚くべき変化」が見られたという。「今まで一度も二本足で直立歩行をしたことのない子供たちが、この歩行器を使って部屋を歩き回り、その顔には喜びと達成感があふれていた」と彼は回想している。「突然、彼らが想像もしなかった世界に突入したかのようだった」と付け加えた。

 最後に、ハンフリー教授は、彼らが理学療法士の助けを借りて直立歩行をする熱意を目にして「人間の精神に対する敬意が新たになった」と語った。「最も不利な環境にある人間でも、自尊心と自己意識を維持するためならどんなことでもして逆境を乗り越えられることを目の当たりにした」と締めくくった。

関連動画

【参考記事】
Ulas family that walks on all fours ‘shouldn’t exist’, say scientists | indy100
https://www.indy100.com/science-tech/ulas-family-walk-on-all-fours-2669079690

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【本記事は「ミステリーニュースステーション・ATLAS(アトラス)」からの提供です】

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文=ナオキ・コムロ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

ミステリーニュースステーションATLAS編集部員
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