現代の技術でも再現不可能?!至高の音色を響かせるバイオリン「ストラディヴァリウス」の謎

アントニオ・ストラディバリ 画 Edgar Bundy – , パブリック・ドメイン, リンクによる

 ストラディヴァリウスとは、イタリア北部クレモナの弦楽器職人であるアントニオ・ストラディヴァリとその子らの手によって、およそ300年前に製作された弦楽器を指す言葉である。ストラディヴァリウスという名称は彼の名のラテン語読みに由来しており、「名器」の代名詞として知られている。

 ヴィオラ、チェロ、コントラバス、マンドリンなど、ストラディヴァリ父子は弦楽器であれば、ほぼなんでも製作していたと言われているが、中でも特に多く作ったのがバイオリンであった。70年の間に1100~1300挺もの弦楽器を制作し、その中で現存しているのは600挺ほどであると言われている。中でも、バイオリンとチェロ以外は現存数があまりにも少ないために市場へは出回っていないという。

 さて、一般にストラディヴァリウスといえばイメージされるのは間違いなくバイオリンである。それは史上最高のバイオリンと名高く、「ストラディバリウスを超えるバイオリンは誰も作れない」とまで言わしめるほどである。

 現代のバイオリンの殆どがこのストラディバリウスを手本にして製作されていることから、いかにストラディヴァリウスの影響力が大きいものであるか窺い知れるだろう。あまりにも有名なために贋作も多いが、オークションに出ようものなら億単位は確実と言える代物となっている。

 では、なぜそのバイオリンがそこまで高価なものとなっているのかというと、ずばり「音色」だ。その美しい音色は、現代の技術では再現不可能とまで言われており、その工程についても、「ニスの素材の正体がいまだにわかっていない」との説もあるそうだ。

 近年では、「材質」という点がCTスキャンを用いた研究によって明らかになっている。これはストラディヴァリ父子の活躍した17世紀から18世紀にかけては小氷河期中ごろであり、夏や冬を含めた一年中、木の成長スピードが安定していたことで「均一な密度の木材」がもたらされたことが起因しているのではないかとする説が有力視されている。

 とはいえ、材質が良かったとしてもそれを至高とまで言わしめるものに仕上げるのは、間違いなく職人の手腕であったことは確かである。最適な材質・高い技術・エイジング、これらが組み合わされて生み出されたまさに奇跡的な存在であるのだ。

 これまで、多くのコレクターなどの手に渡り、演奏家によって弾かれたストラディヴァリウスは、その知名度の高さから様々な作品にも登場し、また多くのエピソードも残されている。世の中には、自宅を売り払ってまで手に入れた人物までいたというから魔性の楽器とも呼べるかもしれない。

 バイオリン演奏を趣味とする名探偵シャーロック・ホームズの所持するバイオリンもストラディヴァリウスであるが、安物だと思っていたユダヤ人古物商から55シリングで購入したものであるという。彼は、実際は高級バイオリンであるということを古物商に教えず、およそ7万円弱という破格の値段でしめしめと手に入れたわけである(『シャーロック・ホームズの回想』)。

Håkan Svensson (Xauxa) – taken, cleaned, cropped, and uploaded by Håkan Svensson (Xauxa), CC 表示-継承 3.0, リンクによる

 因みに、日本にも関係したエピソードがある。現存するストラディヴァリウスのうちの数十挺は日本音楽財団が所有しており、バイオリニストに無償貸し出しをしている。2011年6月には、1721年製のストラディヴァリウス1挺(二つ名:レディ・ブラント)が財団によって英国オークションに出品され、日本円で落札価格およそ12億7000万円もの値が付いた。この売り上げ金は同年3月に発生した東日本大震災の義援金として使用されたが、財団が楽器を売却したのはこれが初めてであったそうだ。

 魔力とも言えるほどに多くの人々を虜にするストラディヴァリウス、その魅力は時を超え、これからも多くの演奏家や音楽愛好家の心を掴み続けるだろう。奇跡の音色を持つこの名器は、まさに音楽史に刻まれた永遠の伝説なのかもしれない。

【参考記事・文献】
ストラディバリウス
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/8235.html
時価数十億!?ストラディヴァリウスが高い理由
https://10mtv.jp/pc/column/article.php?column_article_id=3767
シャーロック・ホームズの音楽帳 その1〈ヴァイオリン篇〉
https://ontomo-mag.com/article/column/iiongaku13-20190411/
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文=黒蠍けいすけ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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