“オランダのラスプーチン”といわれた女 ― ホフマンスと王室の蜜月関係=オランダ
■世界の指導者がサイキックたちに頼ってきた
2015年6月9日、AFP通信は旧ソ連政府のお抱えだった心霊治療師ジューナことエフゲニア・ダヴィタシュビリが死去したと報じた。このように心霊治療師や占い師、魔術師が国家の首脳に仕えるという状況は、なにも旧ソ連に限った話ではない。
帝政ロシアの時代、怪僧ラスプーチンがニコライ2世の政治に影響を及ぼしたことは有名であるし、古くはエリザベス女王に仕えた魔術師ジョン・ディー、推古天皇と弓削道鏡。現代でもアメリカのレーガン大統領が占星術師ジーン・キグリーのアドバイスを受けていたことは有名であるし、アフリカ諸国には、大統領が部族の魔法医の言いなりという国がいくつもある。2012年に内戦で殺害されたリビアのカダフィ大佐も、お気に入りの魔術師を何人も抱えていた。
そして、これと似た状況は20世紀のオランダにもあった。この時、とある女性治療師が当時のオランダ女王であるユリアナに思想的な影響を及ぼし、一時は国家を揺るがす大事件にまで発展したのだ。
■手をかざすだけで病気を治す女、ホフマンス
事の発端は1947年、ユリアナ女王と夫であるベルンハルト王配殿下の間に、四女のクリスティーネ王女が生まれたことにある。女王が妊娠中に患った風疹の影響か、この王女は生まれつき目がほとんど見えなかったが、女王夫妻はなんとか娘の目を治したいという一念で八方手を尽くし、見つけ出したのがフレート・ホフマンスという治療師の女だった。
ホフマンスは1894年に生まれ、前半生を貧困のうちに過ごした。ところがある時、神の声を聞くという体験を通じ、手を置くだけで病気を治してしまう能力を得た。手を当てたり、手をかざしたりするだけで治療するこの行為、日本では「手かざし」と総称され、旧大本教から分離した世界救世教など多くの新興宗教で行われているが、西欧にも高貴な人物が手を触れることで病気を治す「ローヤル・タッチ」と呼ばれる治療法がある。何はともあれホフマンスは、独自にこの能力を習得したらしい。
■女王とホフマンスの蜜月関係、その全貌
こうしてホフマンスはオランダ王宮に召し出され、王家と一緒に生活するようになる。しかし、クリスティーネ王女の目は一向によくならない。その代わり、ホフマンスはユリアナ女王に思想的な影響を与えはじめる。
ホフマンスの述べることは、平和主義や友愛、献身など、個人的には有益な価値観であった。しかし、当時は冷戦が始まったばかりであり、オランダも西側諸国と歩調を合わせ、東側諸国に対して時には強硬な政策をとる必要があった。道徳的に正しいかどうかはともかく、それが政府としての方針であったのだ。ところがこうした施策に対し、ユリアナ女王が批判的な言動をとるようになってしまう。これを当時のオランダ政府は、ホフマンスの影響によるものと危惧した。
そして1956年、ドイツを代表する政治雑誌『デア・シュピーゲル』がホフマンスを「オランダのラスプーチン」と報じたことで、その存在が白日の下にさらされることになる。政府は内務大臣であったルイス・ビールを委員長とする調査委員会を立ち上げ、ホフマンスが女王に対して与えた影響を調査した。その結果、彼女は王室から追放され、オランダ王室との接触を一切禁じられてしまう。当時、一部の右翼勢力から、ホフマンスに対する脅迫状が寄せられたとも言われている。
■ペテン師か、それとも本物か?
こうしてホフマンスと王家との関係は途切れたが、彼女はその後も治療師としての活動を続け、上流階級の信者を多数集めていたという。その一方、いわゆる懐疑論者の側は、彼女は単なるペテン師であったと決めつけている。
クリスティーネ王女については、新しい技術を用いた眼鏡を使用することで通常の生活を送れるようになったというが、母親のユリアナ女王はその後も神秘的なものへの憧憬を抱き続けたようだ。1959年にUFOコンタクティーの元祖として知られるアダムスキーがオランダを訪れた際には、自ら王宮に召し出して彼の経験談に耳を傾けている。
一国の女王に対して、これほど強い影響を残したホフマンス。果たして彼女は本物のサイキックだったのか、それともペテン師だったのか? いずれにしても、このような事例が決して珍しいものではないという点はご理解いただけるだろう。
※当記事は2015年の記事を再編集して掲載しています。
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2024.10.02 20:00心霊“オランダのラスプーチン”といわれた女 ― ホフマンスと王室の蜜月関係=オランダのページです。心霊、オランダ、治療、女王などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで