他人になりすまし、他人の家に住み、他人として死んでいく「なりすまし生活者」の実態とは・・・

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画像はUnsplashChris Yangより

※当記事は2019年の記事を再編集して掲載しています。

――DV・自殺・暴力団・宗教・統合失調症…… 事故物件よりも鬱になる「暗黒物件」の闇を“不動産執行人”ニポポが語り尽くす…!

「管理費・共益費・修繕積立金」

 昨今ではこれらをめぐるトラブルも少なくない。単に払えないという事例も多いが

「もう分譲購入しているんだから支払う理由はない」

「値上がりするとは聞いていない」

「相続はしたが住んでいないのだから」

 このような独自の理論を展開し、管理費や修繕積立金の支払いをボイコット。そして滞納金もかさんだ頃に訴訟を起こされ、差し押さえ・不動産執行が発生するというケース。他にも「管理や修繕を何もしていないじゃないか」と支払いを拒否する場合もある。

 どれも契約と規約がある以上、訴訟になった場合まず勝ち目はないのだが、後者については「まぁ、そう言いたくなるのも無理はない」という物件もある――。

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画像はUnsplashcharlesdeluvioより

 都内主要駅への通勤にも利便性の高いベッドタウンと呼ばれる某駅より徒歩数分。

 立地も日当たりも申し分ない4階建てマンションではあるのだが、40年近くも管理が放棄され、ノーメンテナンスのまま雨ざらしということで、傷みやゴミの溜まり具合が酷い。

 おまけにクリーニング業者を入れず汚れたままの部屋が次の契約者へと安く賃貸に出されていたため、7割が空室というトンデモナイ物件だった。

 この酷い状況のマンション全体が本日の当該物件。

 こういう場合は、全ての賃貸契約者に事情を説明したり、室内の調査に協力してもらわなくてはならないため一苦労となる。

 さらに今回のマンションオーナーである債務者男性、賃貸契約者との契約もずさんで、記憶を頼りに契約書を探したり、鍵を探したりと奔走させられることになるのだが…… そんな奔走の中に不可解な出会いがあった――。

 7割が空室という状況であるため、まずは空き部屋から調査を入れようと執行が開始されると……、いるのだ。一部屋も賃借契約が無いはずの4階に1人、見知らぬ住人が。

 債務者男性も面識がないというこの住人は、物静かでにこやかな痩せ型男性。年の頃は60代半ば。事情を尋ねてみると、聞き取りやすくゆったりとした口調で経緯を語りだした。

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画像はUnsplashIan Valerio

 該当の部屋は新聞販売店が新聞配達員のために借り上げていた数部屋のうちの一つで、その又貸しの状況が今も続いているという。

「ここに書いてある名前で新聞販売店に問い合わせてもらえれば分かりますから」

 電力会社から届いた請求書が執行官に手渡されると、債務者男性にも新聞販売店との契約は確かに記憶にあるようだったので、一旦事務所に戻り契約書を探すことに。

 エレベーターに乗り込みしばらくすると、債務者男性のおぼろげだった記憶が徐々に輪郭を取り戻す。

「おかしい。その新聞販売店、確か潰れたから契約終わったんだ」

 そのまま執行官が痩せ型初老男性から手渡された電気料金の請求書を確認すると、使用期間の欄には10年も前の年月が記されていた――。

 すると、あの痩せ型初老男性は一体……。

 そのまま多少の警戒感を携えつつ彼の居住する部屋へと戻ると、すでにそこはもぬけの殻。わずか数分の間に身の回りのものを持ち、忽然と姿を消してしまったのだ。

 この後、2~3回該当の部屋を訪ねたのだが、結局彼が戻ってきた形跡は確認できなかった――。

 このまま記憶の彼方へと追いやられていた痩せ型初老男性の存在が、再び話題に上がったのは、執行から約半年後。競売も無事に終わり、落札業者への物件明け渡しが行われた際。

 該当の部屋から痩せ型初老男性の遺体が発見されたのだ。

 どうやら彼は10年ほど前に住んでいた人物が残していった痕跡をもとに、その人物になりすますことで生活していたようなのだが、結局本来の彼が何者なのかという点は不明のまま。遺体の状況からも事件性は認められなかったため、最終的に彼の死は身元不明人の病死として処理された――。

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Image by Lukas Prudil from Pixabay

 他人になりすまし、他人の家に住み、他人として死んでいく。彼が何時、どのようなきっかけで本来の自分を捨てることになったのかは分からないが、この仕事をしていると、そんな“何者でもない人物”に時折出会う。

 そして、このような“何者でもない人物”に出会う機会は、増えつつあるようにも感じる。

 今後、日本全国で空き家が増え、国庫に返納される土地が増え、メンテナンスが放棄されるマンションが増え、さらに行政の対応が手薄になるという流れは免れないかもしれない。

 これは、“何者でもない人物”にとって、何者でもない人生を歩むための土壌が急速に広がることを意味する。

 ふと、当たり前のように流れる生活の足を止め、振り返ってみる。

 あの近所でよく見かける人物は、いつから近所で見かけるようになったのだろうか。

 あの近隣で挨拶を交わす人物は、いつから近隣に住むようになっていただろうか。

 彼ら彼女らは、本当に表札通りの人物なのだろうか。

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文=ニポポ

2005年「トンガリキッズ」メンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。その後は潜入ライターとして、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。
Twitter:@tongarikids
動画サイト:超ニポポの怪しい動画ワールド!(http://ch.nicovideo.jp/nipopo

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