誰も知らない“眼科医の秘密結社”が存在した! 謎の文書「コピエール暗号」と恐怖の儀式

 一説によれば、世界で最も有名な秘密結社であるフリーメイソンの発端は石工職人の互助組織であるといわれている。何かと取り沙汰されるフリーメイソンの起源をたどると同業者組合的な組織であったというのは興味深いのだが、その昔、“眼科医”にまつわる秘密結社があったことが指摘されている。

■18世紀に“眼科医の秘密結社”があった?

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By Own workOwn work , CC BY-SA 3.0, Link

 人類の歴史上最も有名な秘密結社フリーメイソンがあげられるのはトカナ読書にはご存じの通り。フリーメイソンの発端は中世の石工組合(ギルド)であるとされ、シンボルマークのひとつに、石工の道具であるコンパスと定規が描かれていることもよく知られている。そして実際に、近代まではフリーメイソンのメンバーには建築士が多かったといわれている。

 この“建築士の秘密結社”フリーメイソンと並んで、18世紀のヨーロッパ社会に極めて機密性の高い“眼科医の秘密結社”が存在していたことが判明している。

 しかしこれまで歴史上に眼科医の秘密結社があったという話を聞いたことがあるだろうか。どんなに秘密のヴェールに包まれていたにせよ、18世紀のヨーロッパでそれなりの影響力を持っていた組織が、まったく記録に残っていないなどということがあり得るのか? だがそれもそのはず、眼科医の秘密結社は、かつて解読が困難であった文書に記されていたのだ。

■18世紀中期の謎の文書「コピエール暗号」の解読に成功

 地中海のクレタ島南岸のファイストス宮殿遺跡の内部で発見された「ファイストスの円盤」に刻まれた文字や、1912年にイタリアで発見された古文書「ヴォイニッチ手稿」などと並び、専門家にも極めて解読が難しいとされた文書に「コピエール暗号(Copiale Cipher)」がある。

 コピエール暗号は旧東ドイツで発見された豪華な装丁で綴じ付けられた105ページ、7万5000文字からなる手書きの文書であり、18世紀中期に書かれたものだとされている。1ページ目に所有者の名前と思われる「Philipp(フィリップ)1866」という表記と、タイトル的に「Copiale3」という文字が記されていることから、コピエール暗号と名づけられた。

 問題なのは書かれている文字で、アルファベットと記号が組み合わされた文字で綴られた文章がいったい何語で書かれているのかまったく不明であり、当初は解読の糸口すらつかめない厄介な代物であったのだ。

 

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「コピエール暗号(Copiale Cipher)」の16~17頁 画像は「Wikipedia」より

 しかし2011年に、南カリフォルニア大学のケビン・ナイト氏やスウェーデンのウプサラ大学の研究者らによる国際的な合同研究チームが、コンピュータを使った統計的な暗号解読技術を駆使して文書の一部の解読に成功した。

 研究チームは最初はどうしてもなじみのあるアルファベットの部分に注目して解読を試みていたのだが、残念ながら見当違いで、記号を使ったドイツ語であることを突き止めてから解読が進展した。最終的に同音換字暗号(Homophonic substitution cipher)であることがわかり、複雑な換え字のパターンを統計学的手法で解析して解読に漕ぎつけたのだ。ではそこに何か書かれてあったのか?

■入会の儀式は“眼科手術”!?

 この手書きの文書「コピエール暗号」を解読してみたところ、なんと“眼科医の秘密結社”で利用されていた文献であったのだ。

 秘密結社やマフィアなどメンバー間に“鉄の掟”が存在する組織は、入会にもそれなりの覚悟が求められ、ほかのメンバーから試される試練として“儀式”が執り行われるのが常だ。そしてなんと解読されたコピエール暗号の一部分は、“眼科医の秘密結社”への入会の儀式の流れを綴ったものであったのだ。解読された文書によれば、入会の儀式は下記のようなものだ。

・マスター(儀式執行者)は、男(入会希望者)の前に1枚の紙を置いてから、メガネをかけるようにと命令する。

・メガネを装着した男に、マスターは紙の書面を「読め」と命令する。

・男はメガネ越しに手にとった紙をしげしげと見つめるのだが、文字を読もうにも紙は何も書かれていない白紙であった。

・当惑する男に、マスターは取り乱してはならないと諭す。そして視力を向上させる望みが残されていることを指摘する。

・マスターは男のメガネを外してまぶたを布で拭うと、周囲に眼科手術を始める旨を命じる。

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画像は「YouTube」より

・マスターがテーブルに置いてあったピンセットを手にとると、ほかのメンバーが近づき手にしたロウソクの明かりで男の顔を照らす。

・マスターはピンセットで男の眉毛を1本1本抜く。“眼科手術”とはいうものの、眼球や皮膚を切ったり傷つけたりすることは一切ない。

・この間、マスターは男に「実際の治療ではない象徴的な行為である」と説明して安心させる。男はマスターの首から下がったお守りに手を当てて“眼科手術”を耐え忍ぶ。

・“眼科手術”が終わり、マスターはその間に別のものに取り替えてあった書面を再び読むように男に命じる。

・書面は手書きの文字で満ちていた。そして儀式を見守っていた周囲のメンバーが男を祝福する。「おめでとう、兄弟! 今、君には(書面が)見えている」

 この儀式の“式次第”が外に漏れないように細心の注意を払っていたからなのか、複雑に暗号化されて結社内部で門外秘伝のセレモニーとして伝えられていたことになる。また、秘密結社のメンバーが眼科医のみということではないようで、この時代のドイツでは“眼科医”という言葉が啓蒙的な智恵を象徴していたということだ。したがって眼科医の同業者組合というわけではなく、この眼科手術を模した入会の儀式があるからこその“眼科医の秘密結社”であったということになりそうだ。

 ひょっとして“眼科医の秘密結社”は命脈を保って今もどこかで存続しているのかどうか、さらなる解明が待たれるところだ。

参考:「Wired」、ほか

 

※当記事は2017年の記事を再編集して掲載しています。

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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