コルクで固めた「絶対に沈まない船」から乗員25名が消えた —— 70年解けない“幽霊船ジョイタ号”の謎

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「絶対に沈まない船」と聞いて多くの人が思い浮かべるのはタイタニックだろう。だがあの豪華客船が大西洋の底に沈んだのに対し、こちらは正反対の謎を残している。船は沈まなかったのに、乗っていた人間だけが25名まるごと消えたのだ。1955年に南太平洋で発見された無人の幽霊船「ジョイタ号」——その真相は、70年が経った今も海の底に沈んだままである。

元・映画監督の豪華ヨットが「不沈船」になるまで

 ジョイタ号はもともと、1931年にロサンゼルスで建造された全長約21メートルの木造豪華ヨットだった。発注したのはハリウッドの映画監督ローランド・ウェスト。妻の女優ジュエル・カーメンにちなみ、スペイン語で「小さな宝石」を意味する「ジョイタ」と名付けたという、なかなかロマンチックな船である。

 問題はその後だ。1948年の転売時、船体にコルクの内張りが施された。2インチ厚の杉板と樫の骨組みに加え、浮力の塊であるコルクで全身を固めた船体は、理屈の上では「ほぼ沈むことが不可能」になったとされる。さらに後の航海では空のドラム缶80本を貨物に積んでいた。これも巨大な浮き袋として機能する。つまりジョイタ号は、沈もうとしても沈めない船だった——この事実が、のちの謎をいっそう不気味なものにしている。

単発エンジンで出航し、5週間後に「無人」で見つかる

 1955年10月3日午前5時頃、ジョイタ号はサモアのアピアを出港した。目的地は約270マイル先のトケラウ諸島。乗っていたのは乗組員16名と乗客9名、合わせて25名。乗客には政府関係者やコプラ(ヤシ油原料)の買い付け人、医師、そして2人の子どもまで含まれていた。

 ところが出発前、左舷エンジンのクラッチが故障。船は片方のエンジンだけで海へ出ていったとされる。予定では10月5日に到着するはずだったが、船は来なかった。そして11月10日。出港から実に5週間後、貨物船ツバル号が、本来の航路から600マイル以上も西へ流された一隻の船を発見する。それがジョイタ号だった。左舷へ大きく傾き、甲板の手すりが水に洗われる状態で漂っていたという。問題は——船上に、ただの一人もいなかったことである。

ジョイタ号(1955年撮影) Public Domain, リンク

消えた救命いかだ、止まった時計、血の付いた包帯

 発見されたジョイタ号の状態は、ミステリー小説でもやりすぎだと突っ込まれそうなほど不可解だった。3つあった救命いかだとボートはすべて消え、航海日誌、六分儀、銃器に約4トンの貨物まで無くなっていた。一方、デッキには不気味な「残されたもの」もあった。電気時計はすべて10時25分で止まり、危機が夜間に訪れたことを示唆していた。そして聴診器とメスの入った医師のバッグが、血の付いた包帯とともに転がっていたのだ。

 無線機は救難周波数2182kHzに合わせられていた。誰かがSOSを送ろうとした痕跡である。だがアンテナのケーブルが切れており、電波はわずか2マイルほどしか届かなかったとみられている。助けを呼ぼうとして、声が届かなかった——そんな最後の光景が浮かんでくる。

70年たっても「説明不能」、乱立する説

 1956年にアピアで開かれた正式な調査の結論は、あっけないものだった。「提出された証拠からは説明不可能」。技術的な原因の一端は判明している。左舷補機の冷却配管が腐食で破損して海水が侵入。だがビルジポンプにフィルターがなくゴミで詰まり、排水できなかったというのだ。船は徐々に沈み込み、1基だけのエンジンでは舵も利かなくなった。だが、なぜ「沈まないはずの船」を25名全員が捨てたのか。そこが分からない。

 説は乱立した。船長の負傷・死亡でパニックが起きたとする「船長負傷説」、一等航海士との対立から乗っ取りが起きたとする「反乱説」、借金まみれの船長による「保険金詐欺説」(だが意図的に沈めた形跡はなかった)。日本の漁船団や旧日本兵の関与説(根拠の日本製ナイフは古い漁業用の遺物だった)、極めつけは冷戦らしい「ソ連潜水艦拉致説」まで飛び出した。どれも決め手を欠き、船はその後も座礁を繰り返して「呪われた船」と呼ばれ、1970年代までにフィジーの浜辺で朽ち果てた。

 最も真実に近いとされるのは、こうだ。浸水でパニックに陥った人々が、沈まないはずの船を捨て、近くの島か岩礁を目指して救命いかだで漕ぎ出した。だが荒れた海がそれを呑み込んだ——。皮肉な話である。彼らは「沈まない船」の上にいれば助かったかもしれないのに、目の前の恐怖がそれを許さなかった。海難の鉄則「船を最後まで離れるな」を、25名は守れなかったのかもしれない。

 真相は今も、南太平洋の波間に沈んだままだ。沈まない船だけが生き残り、人間だけが消えたこの事件は、海が時にどんな名探偵よりも頑固に口をつぐむことを教えてくれる。

参考:Popular Mechanics、ほか

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