38年間、無人で北極海を彷徨った「世界一執念深い幽霊船」ベイチモ号の怪奇な航海

氷に閉ざされた北極海には、数多くの船乗りの怪談が眠っている。しかし、その中でも「ベイチモ号」の物語は、単なるフィクションを超えた驚くべき歴史的事実として語り継がれている。1931年に乗組員に放棄されてから、実に38年もの間、無人のまま北極の海を漂流し続けたこの船は、まさに「北極海の幽霊船」と呼ぶにふさわしい。
ドイツの商船からカナダの毛皮輸送船へ
ベイチモ号は、1914年にスウェーデンで建造された1,322トンの鋼鉄製蒸気船だ。当初は「アンゲルマンエルヴェン(Ångermanelfven)」という名でドイツの船会社が所有し、第一次世界大戦まではハンブルクとスウェーデンを結ぶ貿易ルートで活躍していた。
戦後、ドイツからの賠償の一部としてイギリスへ譲渡されると、1921年にカナダの歴史的な商社「ハドソン湾会社」が買収。船名を「ベイチモ」と改め、スコットランドを拠点にカナダ北部の北極圏を巡り、先住民の居住地で食料品と高価な毛皮を交換・輸送する任務に就いた。ベイチモ号はその後9回もの航海を成功させ、北極の厳しい環境に耐えうる頑丈な船としての信頼を得ていた。

1931年、氷の地獄に閉じ込められた運命の日
運命の変転が訪れたのは1931年10月1日のことだ。毛皮を積み込み、最後の航海を終えようとしていたベイチモ号は、アラスカのバロー(現ウトキアグヴィク)付近で強固な「流氷」に閉じ込められてしまう。乗組員たちは一時的に船を離れ、氷の上を移動してバローの町で2日間避難した。その後一度は氷を脱出したが、10月8日に再び、さらに深く氷の中に閉じ込められてしまった。
ハドソン湾会社は空路で22人の乗組員を救出したが、船長を含む15人の男たちは船を見捨てることを拒んだ。彼らは冬を越す覚悟を決め、船から少し離れた場所に木製のシェルターを建設して待機した。しかし11月24日、猛烈な吹雪が襲い、視界が回復したときには、ベイチモ号の姿はどこにもなかった。乗組員たちは、ベイチモ号が嵐に耐えきれず沈没したと判断し、船の回収を諦めてその場を去った。
38年間にわたる彷徨:世界一執念深い幽霊船
しかし、ベイチモ号は沈んでいなかった。数日後、イヌイットの狩猟者が、元の場所から約70km離れた場所で漂流するベイチモ号を発見した。残っていた15人の乗組員は船を突き止めたが、船体へのダメージを考慮し、最も価値のある毛皮だけを運び出して船を完全に放棄した。ここから、ベイチモ号の「幽霊船」としての伝説が始まる。
その後数十年にわたり、この無人の鋼鉄船は北極圏のあちこちで目撃され続ける。
1932年: アラスカのノームを目指していた犬ぞりチームが、海岸近くを穏やかに漂流する姿を目撃。
1933年: 地元のイヌピアットの人々が船に乗り込んだが、突然の嵐に襲われ10日間も船内に閉じ込められた。
1939年: ヒュー・ポールソン船長が回収を試みて接舷に成功したが、押し寄せる氷の塊に阻まれ、断念を余儀なくされた。
この船は捕まりそうになると、まるで意志を持っているかのように氷や霧の中に姿を消し、再び数百キロメートル離れた場所で悠々と浮かんでいる姿を見せた。

消えたベイチモ号と、今も続く捜索の行方
最後に確認された目撃情報は1969年。放棄されてから38年後のことだ。アラスカ沖のボーフォート海で、氷に閉じ込められている姿をイヌイットのグループが発見した。それ以降、ベイチモ号の目撃例は途絶えている。
多くの人々は、老朽化した船体がついに入水の圧力を受けて北極海の底に沈んだと考えている。しかし、鋼鉄の船体を持つこの「奇跡の船」がまだどこかで浮かんでいる、あるいは氷の中に保存されていると信じる者も少なくない。
2006年、アラスカ政府は「北極の幽霊船」の謎を解明すべく、ベイチモ号の捜索プロジェクトを開始した。現在もその行方は判明していないが、ハイテク機器を駆使した捜索が続けられている。SSベイチモ号は、冷たい海底に眠っているのか、それとも今も誰にも見られずに、北極の霧の中を漂っているのだろうか。そのミステリアスな航海は、今なお人々の想像力をかき立ててやまない。
参考:Boing Boing、Wikipedia、ほか
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2024.10.02 20:00心霊38年間、無人で北極海を彷徨った「世界一執念深い幽霊船」ベイチモ号の怪奇な航海のページです。幽霊船、北極海などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで