「この家は危険」「食事にありつける」壁に刻まれた謎の暗号、元祖ノマドワーカーたちの“秘密言語”「ホーボーサイン」

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画像は「LADbible」より

 南北戦争後のアメリカでは鉄道網が急速に発展し、労働市場が急激に流動化した。一カ所に定住せずに各地で気ままに短期の職に就くノマドワーカーが増え、彼らの間で新たな“言語”が生まれていたのだった。

■元祖“乗り鉄”の情報共有「ホーボーサイン」とは?

 遊牧民を意味する“ノマド”といえば今ではオフィスに縛られない自由な働き方をする知能労働者のことを指しているが、労働市場におけるノマドワーカーは南北戦争終了後のアメリカで大量に発生していた。

 ノマドならぬホーボー(Hobo)と呼ばれていた彼らは仕事を求めて鉄道に乗って放浪する労働者であり、1860年代のアメリカ本土の鉄道網の急激な拡充によってこのタイプの労働者が登場することになったのだ。ホーボーたちの移動手段のメインが鉄道だが、なるべく安価に利用することを念頭に置いており、速度を落とした列車に飛び乗ることも珍しいことではなかったという。その場合は当然ながら無賃乗車(不正乗車)ということになる。

 そのように移動しながら勝手気ままな働き方をする一方、彼らなりの仲間意識があるようで、仲間内で貴重な情報を共有するための一種の象形文字に似た“言語”が自然発生的に生まれていたのである。

 ホーボーサイン(Hobo Signs)、あるいはホーボーシンボル(Hobo symbols)と呼ばれるこの“言語”は、彼らの間で互いにコミュニケーションをとる独自の方法で、列車、土地柄などに関する情報など、あらゆる詳細を説明するためのシンボルであった。

 ホーボーサインの主な目的は、比較的理解しやすいシンボルを通じて、同じ境遇にある事実上のホームレスの安全を確保することであった。

 円、矢印、ハッシュ、棒などを使用したシンボルは多くの場合、ある種の危険を警告するもので、一方で十字が描かれている場合は近くに教会があり、その夜に温かい食事と宿が得られる可能性があることを意味していた。

画像は「YouTube」より

 ホーボーたちは橋の下、給水塔の土台、壁や柵、さらには下水道の架台などの目立たない場所に、チョークや木炭を使ってシンボルを刻みつけていた。

 ホーボーたちが頻繁に行き来する地域では、情報を共有するためにさまざまなホーボーサインが描かれていた。最近、そうしたサインの画像が大型掲示板「Reddit」で共有され、ユーザーはその画像に込められたさまざまな意味を解読している。

 いくつかのシンボルは「宗教的な話をすると食べ物が手に入る」、「悪人に気をつけろ」、「ここでキャンプしても安全だ」、「敵対的な鉄道警察に気を付けろ」といった意味を持っている。

 ホーボーでいるのは必ずしも楽な生き方ではなかったかもしれないが、彼らは互いに配慮し合ってホーボーサインでコミュニケーションを図り、匿名性を維持するために「ミシシッピ・マイク」や「イリノイ・スリム」といったあだ名を使うことが多かった。

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イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI)

 ホーボーサインはアメリカの「最も有名な放浪者」だったレオン・レイ・リビングストンが、わずか7ドル61セントで50万マイル(80万㎞)を旅することを可能にした情報共有であったことで注目を浴びた。

 彼はアメリカ中を旅しながら数多くの新聞に暗号を公開し、1911年の著書『Hobo Campfire Tales(ホーボー・キャンプファイヤー物語)』にホーボーサインの全リストを紹介したのだ。いわば“貧乏旅行”のバイブルでもあったのである。

 ホーボーサインは門外漢にはわかりにくいかもしれないが、彼らがこの時代に実際にそこにいて、労働市場でサバイバルしていたことを伝えるユニークな文化遺産であったとも言えるのだろう。いわゆる“乗り鉄”の源流の1つであることは間違いなさそうだ。

参考:「LADbible」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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