古代エジプトのピラミッドに「ブービートラップ=罠」は存在したのか?― 専門家が明かす盗掘対策の真実

隠し扉の向こうには、毒矢が飛び出す床。底なしの落とし穴。そして、侵入者を永遠に閉じ込める巨大な石の罠――。映画『インディ・ジョーンズ』やゲーム『トゥームレイダー』で描かれるような、古代エジプトのピラミッドに仕掛けられた巧妙なブービートラップ。
我々が抱くこのイメージは、果たして真実なのだろうか。エジプト学者たちが導き出した答えは、驚くほど明確で、そして断固としたものであった。
「そんなものは存在しない」
なぜブービートラップは“非現実的”なのか
「彼らはピラミッドにブービートラップは使いませんでしたが、侵入するのをめちゃくちゃ困難にすることはできました」。古代エジプトの墓の防犯対策について詳しいエジプト学者、レグ・クラーク氏はそう語る。
専門家たちがブービートラップの存在を否定するのには、明確な理由がある。古代の墓泥棒は、単独犯ではなく、大規模なチームで行動していた。仮に罠で一人か二人を捕らえることができたとしても、残りの仲間たちの侵入を防ぐことはできない。ブービートラップは、組織的な盗掘団に対しては、ほとんど効果がなかったのだ。
では、古代エジプト人たちは、ファラオの永遠の眠りを守るために、どのような対策を講じていたのだろうか。

究極の防御は「建築そのもの」
古代エジプト人たちが頼ったのは、機械的な罠ではなく、建築そのものが持つ圧倒的な防御力であった。
◆巨大な質量:そもそもピラミッドという巨大な建造物自体が、究極の防犯装置であった。それ以前の、マスタバと呼ばれる長方形の墓に比べ、ピラミッドの中心にある玄室(埋葬室)にたどり着くには、遥かに深く、長いトンネルを掘る必要があった。
◆通路の封鎖:ファラオが埋葬された後、ピラミッド内部の通路や入口は、巨大な花崗岩のブロックなどで完全に封鎖された。この封鎖を突破するのは、至難の業であった。
◆意図的な“ハズレ通路”:クフ王の大ピラミッド内部には、玄室へと繋がらない「ダミーの通路」が存在する。これらが侵入者を欺くために作られたのかどうかは定かではないが、盗掘者を混乱させる効果はあったかもしれない。
これらの建築的な防衛策は、時に意図せずして「罠」として機能することもあった。1950年代、サッカラにあるセケムケト王のピラミッドの発掘調査中、通路を塞いでいた充填材が崩落し、作業員1名が死亡、2名が負傷するという痛ましい事故も起きている。

呪いの言葉と、最も恐ろしい“罰”
物理的な防御に加え、古代エジプト人たちは、超自然的な力にも頼った。「ピラミッド・テキスト」として知られるヒエログリフには、ファラオを死後の世界で守るための、魔法の呪文が記されている。これらは盗掘者を直接呪うものではないが、「(ファラオの)名を悪く言うすべての者を、オシリス神よ、連れ去りたまえ」といった一節は、侵入者への強力な警告となっただろう。
そして、墓泥棒にとって最も恐ろしかったのは、捕まった場合の罰であった。古代の記録によれば、墓荒らしの罪で捕まった者は、鼻と耳を削ぎ落とされた上、串刺しの刑に処されたという。
しかし、これらの厳重な対策にもかかわらず、多くのピラミッドは古代のうちに盗掘されてしまった。かの有名なクフ王の大ピラミッドでさえ、その例外ではなかった。
やがてエジプトの王たちはピラミッドの建設をやめ、より警備しやすい「王家の谷」に墓を造るようになる。しかし、それでも盗掘を完全に防ぐことはできず、ツタンカーメンの墓が奇跡的な例外として残されたに過ぎない。
映画のような機械仕掛けのブービートラップは存在しなかったが、古代エジプト人たちがファラオの安息を守るために注いだ知恵と労力は、我々の想像を遥かに超えるものだったのである。
参考:Live Science、ほか
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2024.10.02 20:00心霊古代エジプトのピラミッドに「ブービートラップ=罠」は存在したのか?― 専門家が明かす盗掘対策の真実のページです。ピラミッド、罠、盗掘などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで