“沈黙のジェノサイド” ― 現代文明を拒む「未接触部族」196部族が絶滅の危機に瀕している

密林の奥深く、文明社会から完全に隔絶され、独自の文化と言語を守りながら暮らす人々がいる。「未接触部族」と呼ばれる彼らは、地球上に残された人類の多様性の生きた証人だ。しかし今、彼らのささやかな暮らしが、“文明人”のエゴによって破壊されようとしている。国際NGO「サバイバル・インターナショナル」が発表した最新の報告書は、彼らが直面する過酷な現実を「沈黙のジェノサイド(虐殺)」と呼び、世界に警鐘を鳴らしている。
アマゾンに潜む、文明を拒絶した人々
報告書によれば、現在、世界には少なくとも196の未接触部族が存在するという。その95%はアマゾンの熱帯雨林に集中しており、特にブラジルには124もの部族が暮らしている。
彼らは、我々が過酷と見なす環境の中で、狩猟や採集、漁を行い、完全に自給自足の生活を送っている。外部からの攻撃さえなければ、彼らのコミュニティは健康で、繁栄していることが数少ない観察記録から明らかになっている。彼らは我々の助けなど必要としていない。ただ、静かに暮らすことを望んでいるだけなのだ。
鉱業、伐採、そして“インフルエンサー”―忍び寄る現代の脅威
しかし、彼らの聖域は、今、四方八方から侵略の危機に晒されている。
報告書によれば、未接触部族の96%が資源採掘の脅威に直面している。違法な伐採は彼らの森を破壊し、鉱業は大地を汚染し、アグリビジネス(農業関連産業)は彼らの土地を奪い去っていく。政府が主導する道路や鉄道の建設も、彼らの生活圏を容赦なく分断する。
ブラジルの先住民活動家、セリア・シャクリアバ氏は、この状況を「法律によるジェノサイド」と呼ぶ。「植民地時代にも、独裁政権下でも、彼らは我々を絶滅させることはできなかった。しかし今、彼らはペンと紙で、我々を殺そうとしている」。
さらに、21世紀ならではの新たな脅威も出現している。それは、名声を求めるソーシャルメディアの「インフルエンサー」や、キリスト教への改宗を迫る「宣教師」たちだ。彼らは、再生数や信者獲得のために、未接触部族との接触を試みるという、極めて危険で無責任な行為に及んでいる。

センチネル族の悲劇―“善意”がもたらした死
近年、この新たな脅威が最も悲劇的な形で表面化したのが、インド洋に浮かぶ北センチネル島だ。この島に住むセンチネル族は、世界で最も孤立し、外部との接触を頑なに拒み続けてきた部族として知られる。
2018年、アメリカ人のキリスト教宣教師が、彼らに福音を伝えようと違法に島へ上陸し、弓矢で殺害されるという事件が起きた。また、今年に入ってからも、アメリカ人のYouTuberが、島への接近を試みる動画を撮影し、逮捕されている。
彼らの行為は、善意に基づいていたのかもしれない。しかし、未接触部族にとって、外部からの接触は、未知の病原菌による絶滅を意味する死の宣告に他ならないのだ。

残された時間は10年―我々にできること
サバイバル・インターナショナルは、「今後10年で、未接触部族の半数が絶滅する可能性がある」と警告する。この静かなるジェノサイドを止めるためにできることは何か。
その答えは、極めてシンプルだ。「彼らの土地の権利を法的に保護し、彼らが望む“孤立”を、尊重すること」
サバイバル・インターナショナルのキャロライン・ピアース代表は言う。「解決策は明白です。産業界と政府は、この植民地化を止めるために、今すぐ行動しなければなりません。そうすれば、未接触部族は、彼らが望むように、自由に生きることができるのです」。
文明の光が届かない密林の奥で、今この瞬間も、一つの文化が、一つの言語が、静かに消えようとしている。彼らの存在を守るのか、それとも見捨てるのか。その選択の時は、もう目前まで迫っているのかもしれない。
参考:IFLScience、ほか
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2024.10.02 20:00心霊“沈黙のジェノサイド” ― 現代文明を拒む「未接触部族」196部族が絶滅の危機に瀕しているのページです。アマゾン、北センチネル島、未接触部族などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで