イーロン・マスクが宇宙開発の標的を「月」へシフトか。スペースXが進める10年以内の月面都市建設と、その背後にある戦略の正体

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 イーロン・マスク氏率いるスペースXの火星開発計画が変更か――。同社の宇宙開発のターゲットが火星からへと舵を切ったのだ。

■スペースXが月面開発を優先か

 2月8日の日曜日夕方、イーロン・マスク氏が自身のXに次のようなツイートを投稿した。

「知らない人もいるかもしれないが、スペースXはすでに月面に自律的に成長する都市を建設することに重点を移している。火星だと20年以上かかるが、スペースXなら10年以内に実現できる可能性があるからだ」(Xより)

 四半世紀前、マスク氏は火星への移住という一点に目標を絞ってスペースXを設立した。人類が複数の惑星に住む種族になるための旅を始めるのに最適な場所は火星であるというマスク氏の信念に基づいているといわれている。

 この信念が揺らいでいるということなのか。マスク氏が月への方向転換を決めた理由を今は完全に知ることはできそうもないが、米科学メディア「Ars Technica」の記事によればいくつかの理由が考えられるという。

 まずはジェフ・ベゾス率いる「ブルーオリジン(Blue Origin)」が、ついにその実力を発揮し始めたことである。同社は「ニューグレン(New Glenn)」ロケットの打ち上げと着陸を成功させており、複数の情報筋によると、ベゾス氏はチームに月探査に「全力で取り組む」よう指示したとのこと。

 これによりブルーオリジンがスペースXよりも先に有人月面開発に着手する可能性が出てきたため、これまではライバル不在であったスペースXもその動向を真剣に受け止め始めているとのことだ。

 もう一つの大きな変化は、AIと宇宙がマスク氏らの野望においてますます密接に絡み合っていることだ。先日、スぺースXとAI開発企業「xAI」の2社が統合されることが発表されたが、それはAIシステムを太陽エネルギーで直接賄う「宇宙データセンター」の構築への布石であるといわれている。

 さらにマスク氏はソーシャルメディア上で月面に「マスドライバー」を建設することについても頻繁に言及している。マスドライバー (Mass driver) は、惑星の衛星軌道上や衛星の周回軌道上に物資を大量かつ効率的に輸送するための装置である。

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Gage Skidmore – https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/54820081119/, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

 彼はまたカルダシェフスケールの文明について多くを語るようになっている。この文明尺度では、まず惑星上でフリーエネルギーを実現する「タイプⅠ」から、次にダイソン球のような技術を用いて恒星のエネルギーを直接収集することで「タイプⅡ」へと進歩を遂げていく。

 いずれもまるでSF小説から飛び出してきた話のようであるが、火星開発に比べれば数倍も現実的な構想である。

 月に焦点を当てることで、マスク氏はNASAと米政府において利益となる決断を下したとも言えそうだ。ブルーオリジンは小型の月着陸船でその可能性を約束している一方、スペースXのスターシップは近い将来、人類を再び月に送り込むための有望な道筋を示している。

 スターシップのもう一つの利点は、100トン以上の貨物を月まで運ぶことができる優れた積載能力で、月面での商業事業の構築を目指す者にとって、今回のマスク氏の計画変更は大きなチャンスとなり得るだろう。

 人類の火星進出が遅れるのは残念なことではあるが、より堅実な月面開発へと舵を切ったマスク氏とスペースXは、今後ビジネス界からの注目をこれまで以上に集めていくことは間違いない。

参考:「Ars Technica」ほか

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
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