ワープ航法を国防情報局が研究していた!? UFOファイルの論文が導いた「カタツムリ並み」の速度とダークエネルギーという切り札

光より速く宇宙を飛ぶ「ワープドライブ」は、本当に作れるのか。SFの定番ともいえるこの問いに、米国の情報機関が予算を投じて向き合っていたことを示す論文が注目を集めている。
米国防総省が今年公開を続けているUFOファイルの中に、国防情報局(DIA)の研究計画「AAWSAP」の一環として2010年にまとめられた、ワープ航法の実現性を検討する論文が含まれていたのだ。一部のメディアは「宇宙人を探しに行くための計画」と大きく報じたが、中身はもっと地に足のついた物理の検討である。
宇宙船は止まったまま、空間のほうが動く
論文の土台にあるのは、1994年にメキシコの物理学者ミゲル・アルクビエレ氏が示した理論だ。宇宙船を直接加速するのではなく、船の前方の空間を縮め、後方の空間を広げる。そうしてできた非対称な空間の「泡」の中で、船自体はじっとしたまま、空間ごと運ばれていくという発想である。
アインシュタインの一般相対性理論が禁じているのは、物体が空間の中を光より速く動くことだ。空間そのものの伸び縮みには、その制限がかからない。アルクビエレ氏はこの抜け道を数式で示し、ワープ航法を理論の上では矛盾しないものにした。
ただし問題はエネルギーだった。泡を作るには、人類が用意できる量をはるかに超える、しかも通常とは性質の違うエネルギーが必要になるとみられてきた。
今の人類では「カタツムリ並み」、切り札はダークエネルギー
論文の題名は「ワープドライブ、ダークエネルギー、余剰次元の操作」。DIAが公開した研究題目のリストでは、非営利団体イカロス・インターステラーの理論物理学者リチャード・オボウジー氏の作とされ、共著者としてエリック・デイヴィス氏の名も挙がっている。
結論は、理論上ワープドライブは作れるというものだ。ところが人類が扱えるエネルギーで計算すると、船はまともに進まない。著者は、庭のカタツムリのほうがまだ速く這うだろうと皮肉まじりに書いている。
そこで切り札として持ち出されたのが、宇宙の膨張を加速させている正体不明の「ダークエネルギー」だ。題名どおり、目に見えない余剰次元に手を加えることで、宇宙を押し広げるこの力を局所的に操れないかという方向で、実用に耐えるワープドライブへの道筋が探られている。
なお、AAWSAPの技術論文は以前から知られており、この論文も2018年ごろには米国の地元テレビ局のサイトで公開されていた。今回が初めての公開というわけではないが、国防総省の公式ファイルとして改めて表に出た形だ。
光より速く飛べば、過去を変えてしまうかもしれない
論文を読んだ英ロンドン大学クイーン・メアリー校の物理学者キャティ・クロー氏は、理論としては筋が通っているものの、遠慮なく推測を重ねた内容だと評価した。
クロー氏によれば、ダークエネルギーでワープドライブを作るという発想は、実は怪しげな説の常連だという。そのため期待せずに読んだと明かし、ワープの話を始めた時点で正気の範囲は越えており、あとはどこまで踏み込むかの違いだとも述べている。
同氏が最大の問題に挙げるのが因果律だ。光より速く移動できれば遠くへ早く行けるが、理論上は原因と結果の順序が崩れ、過去を書き換えられる可能性まで出てくる。それはさすがに歓迎できないと、同氏は冗談めかして指摘した。
現実の宇宙開発はまだはるか手前にいる。2年前には、NASAの先進構想プログラムが支援する米ハウ・インダストリーズの核分裂を使ったパルスプラズマロケットについて、火星への有人飛行を2カ月ほどに縮められる可能性があると話題になった。地球から火星までは最短でも約2億2,500万kmあり、今の技術では片道9カ月以上かかるが、このロケットでもワープには遠く及ばない。
それでも、情報機関がUFOの研究計画の中で光速の壁を越える方法を大真面目に計算していたというのは面白い。目撃される未確認物体が、もし空間ごと動く船だったなら、その操縦者は、人類がまだ解けないエネルギーの問題をとうに解いているのかもしれない。
参考:Daily Star、Warp Drive, Dark Energy, and the Manipulation of Extra Dimensions、NASA、ほか
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