もしも生霊に襲われたら…? 刑事責任を追及することはできるか

もしも生霊に襲われたら…? 刑事責任を追及することはできるかの画像1画像は、Image from page 115 of “Oracle, The” (1919)/from Flickr/No known copyright restrictions

――「超常法律相談所」では、弁護士資格を持つライターが、不思議なニュースやオカルトの素朴な疑問について、法律的見地から答えを見つけていく。

 今回は、生霊を訴えることができるかを考えてみよう。まずは、下記のケースを想像しながら読んでみていただきたい。

 都内の会社に勤務する甲野太郎と乙野花子は職場の同僚で、結婚を約束して親密に交際していた。ある日、同じ職場に丙野月子が中途採用で赴任してきた。月子はイケメンの太郎に一目惚れし、太郎は月子の猛アタックに根負けして、花子との交際を継続しつつ月子とも親密に交際するようになった。

 ある晩、花子は大学時代の友人たちと食事しに繁華街に行った帰途、ラブホテルから手を繋いで出てきた太郎と月子を目撃してしまった。花子は、ひどい精神的ショックを受けた。「結婚を約束した私がいるのに…」と太郎を怨み、太郎を略奪した月子のことも怨んだ。

 花子が仕事でベトナムに出張していたある晩、太郎と月子は、花子が国外にいるのをいいことに、ラブホテルでハードな変態プレイに耽っていた。太郎と月子が全裸で絡み合っているベッドの横に、どこから入ってきたのか、白い着物姿の花子が、日本刀の抜き身を携えて立っていた。白装束の花子は、「これが私の怨みだ」と絞り出すような低い声で静かに言うと、携えていた日本刀で、太郎の陰茎と陰嚢を切断し、月子の乳房を切断した。

 太郎と月子の絶叫を聞いて部屋に入ったラブホテルの従業員は、全裸でのたうちまわる2人を発見したが、警察の事情聴取に対して「2人のほかに人はいなかった」と証言した。

 花子は、2日後、ベトナム出張から帰国した。出張中は職場の後輩の女性社員と常に行動をともにしており、後輩は、花子の所在が分からなくなることはなかったという。2人を襲ったのは、花子の生霊だった。


■花子の刑事責任を追及できるか?

 残念なことに、花子を傷害罪(刑法第204条)で処罰することはできない。花子は、太郎と月子を襲っていないからである。花子は、太郎と月子を激しく怨んではいたが、「怨む」という外形的行動に表れていない内心の意思を原因としてその人を処罰することはできない。刑法で処罰されるのは、人の「行為」である。行為とは、「行為者人格の主体的現実化としての身体の動静」である。

 では花子が、(呪術を用いる等)自らの意思で生霊を現出させて、太郎と月子を襲った場合はどうであろうか?この場合も、花子は処罰されない。この場合は、講学上は、行為者が、本来犯罪を完成させる危険性を含んでいない行為によって犯罪を実現しようとする場合であり、「不能犯」とよばれる。つまり、講学上は、花子は、自らの意思で生霊を現出させたと信じているだけのことである。生霊の存在が科学的に証明されていない以上、このような結論になる。


■花子の民事責任を追及できるか

 では、太郎と月子は、花子に対して、民法第709条に基づいて不法行為責任を追及して、治療費や慰謝料等の損害賠償を求めることはできるであろうか? この点も、無理である。花子は、言うなれば何にもしていないのであり、太郎と月子に対して不法行為を行っていないからである。

 では、花子が、(呪術を用いる等)自らの意思で生霊を現出させて、太郎と月子を襲った場合はどうであろうか? この場合も、太郎と月子の請求は認められないであろう。花子の行った呪術と太郎と月子の負った傷害との間に相当因果関係が認められないからである(現在の科学においては、呪術を行ったとしても、生霊が怨恨の相手方を襲うとは認められていない)。

 なお、「花子が呪術を行ったことにより気分を害した」という理由での慰謝料請求は認められる余地はあろう)


■花子の生霊の刑事責任を追及できるか

 生霊を処罰することはできない。刑法が予定している犯罪の主体は自然人(生きている人)であり、霊は犯罪の主体たり得ないからである。


■花子の生霊の民事責任を追及できるか

 生霊に対して損害賠償責任を追及することはできない。民法上、不法行為の主体として想定されているのは人(自然人および法人)であるが、生霊は自然人ではなく、もちろん法人でもないので、不法行為の主体たり得ないからである。設例が凝っていたわりには結論がつまらなくて、読者のみなさまには申し訳ないです。でも、デタラメを書くわけにもいきませんので、御容赦くださいませ。

※本稿は、現在の我国の法規を念頭において執筆している。現在の我国と政治体制の異なる国においては、外形的行動に表れていない内心の意思を原因として、その人を処罰する可能性はある。(例:我国における第二次世界大戦中の「治安維持法」)
(文=希 雅祥/ライター)

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