“栄光の手”がもつ不思議な魔力 ― 周囲の者を一瞬にして眠らせる不思議な手
だが、手はなぜ壁の中に隠されていたのだろうか? おそらくそこが保管上最も安全であったため……ではなく、当時の人々の生活では衣類や雑貨などは魔性のものから守るように人の目につかない所に隠すことが一般的な風習になっていたため、この栄光の手もごく自然なかたちで隠されたのではないかと推測されている。とすれば、もしかしたらこの手は、実際使用した強盗によって隠されていたものなのかもしれない。何にせよ、1700年代~1900年代にかけて栄光の手は非常にポピュラーであり、ヨーロッパ内ではこういった不気味な魔術道具の類が当時のさまざまな物語に登場しているという。
栄光の手、Hand of Gloryの興味深い点はその名前の由来にもある。一部の専門家によるとGloryは「main de gloire」 を部分的に修正したものであり、さらにその語源はマンドレイク(マンドラゴラ)ではないかという説がある。
マンドレイクはナス科の紫色の薬草で、魔術や錬金術の原料として登場し、服用すると幻覚や幻聴が起こり、時には死に至る神経毒が含まれている。このように興趣が尽きない栄光の手だが、博物館で保管されている手が本物であるとすれば、当時の言い伝えや伝説を裏付ける上でも非常に重要な資料になるだろうとしている。
それにしてもリアルすぎる外見とインパクトのある製作過程には驚きである。実際にどのくらい泥棒の役に立ったのかは不明だが、確かに魔力がありそうに見えてくる……。
■栄光の手にまつわる言い伝え
保管されている「ウィットビー博物館」のサイトでは栄光の手にまつわる逸話が紹介されている。そのひとつは1797年のもので、ある老婦人が宿屋で(翌朝早くに出発しなければならないという口実で)階下のソファで寝させてほしい、と主人に頼んだことから話ははじまる。
主人は同意し、主人の家族は眠る時に二階に上がり、階下に残ったのはこの老婦人と若いメイドだけであった。メイドは老婦人のドレスの裾から男性用のズボンが出ているのに気づき、不審な客だと思い寝ているふりをして観察していると、案の定その老婦人の本性は男で、しかも泥棒であった。泥棒はドレスや帽子を脱いで栄光の手を取り出し、メイドに向け火をかざして唱えた。
「眠れる者よ眠れ、目を覚まし者は覚めよ」
しかしこのメイドは魔術が効かない人間だったのだ。メイドがすっかり眠っていると信じ込んだ泥棒は栄光の手をテーブルの上に置くと、玄関のドアを開けて泥棒仲間を呼んだ。
と、その時メイドは飛び起きて泥棒をドアの外に突き飛ばして鍵を閉め、急いで二階にいる主人らを起こしに行った。だが栄光の手の魔力効果か、残念なこと主人たちはぐっすりと深い眠りに入っており、なかなか目を覚まさない。
泥棒たちがドアを壊そうとする音が聞こえたので階下に戻り、栄光の手に灯っている火を吹き消そうとしたが消せなかったため、近くにあった脱脂乳を口に含むと同時に栄光の手に吐きかけた(乳製品は栄光の手の魔力を解くのに有効とされているためである)。
すると火はぱっと消えて、目を覚ました主人らは、すぐに階下に駆け下りて泥棒たちを捕らえた。泥棒たちは栄光の手を返してくれたら大人しく立ち去る、と訴えたが主人は許さずに銃で彼等を撃ち殺したのだった……。
(文=Maria Rosa.S)
参考:「Express」、「Ancient Origins」、「ウィットビー博物館」ほか
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2024.10.02 20:00心霊“栄光の手”がもつ不思議な魔力 ― 周囲の者を一瞬にして眠らせる不思議な手のページです。魔術、ミイラ、Maria Rosa.S、ロウソク、栄光の手などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで