【3.11】子どもの遺体を導く母の幽霊、憑依する霊……被災者の心を読み解く「21の幽霊体験談」!
■復興が進まず“帰れない”人たち
亡くなってしまった人たちが暮らしていた土地には、彼らの生活の記憶が遺っている。津波がすべてを流し去っても、記憶は消えず、彼らもまたそこにいるのだ。被災地のタクシーに幽霊が現れるという話は以前にトカナでも取り上げたが、それもそのひとつだろう。
宇田川氏によれば、震災で亡くなったり、行方不明になった人はいわば「神隠し」状態であるといい、帰るべき場所を探し求めているということである。そしてその思いは時として、今を生きる人へ及んでしまうようで、復興のボランティアをしていたとある女性が恐ろしい体験をしている。彼女は琴美さんという女性と連日、震災にあった家の復旧作業にあたっていた。そんなある夏の夜のことである。
「突然、琴美さんが胸を押さえて苦しみだしたのです。心臓発作かと思うような痛がりようで、私など、どうしていいかわかりません。慌てて起きようとしたのですが、なぜか動けないのです。私は金縛りにあったようでした。(中略)その琴美さんが突然起き上がり、頭をかきむしって叫びだしたのです。『苦しい……苦しい……』地の底から響いてくるような声、というよりは音でした」(同書より)
動けなかった彼女に代わって介抱していた周りの人もおののいたが、次の言葉にさらに驚くこととなる。
「『ここはどこだ……まだ水の中にいるのか』普段の琴美さんからは似ても似つかない低い声が、体育館の中に響いたのです。『俺は、どこにいるんだ。家に帰らなければならない。誰か帰してくれ。町がなくなってしまった。私の家はどこだ?』」(同書より)
その後、金縛りが解けた彼女が琴美さんに抱きつき、「琴美さん、戻ってきて」と叫ぶと琴美さんの力が抜けそのまま眠ったという。これは震災の犠牲者が、人に「憑依」したと思われる話だ。
帰るところを失いさまよう被災者の魂が安寧を得るためにも、帰るべき場所の復興した新しい姿をみせなくてはならない。そういった意味でも復興を急ぐことは、亡くなった人々への供養になると、宇田川氏は書き記している。
■被災地の未来を見守る死者たち
宇田川氏は日本の神を、神話に登場する神、地元に土着している神、人が死後神格化された神、と3つに分類し、震災で犠牲になった人々も神となって、被災地の復興を見守っていると本書で述べている。
事実、取材中も、亡くなった人が見守っている、犠牲になった人が手助けしてくれているというような話はいくつもあったということだ。震災から5年の月日が経つが、遅々として進まない被災地の復興の様子を見た彼らの心配が、不思議な話に現れているのではないだろうか。
怪談が生まれた背景にどのようなことがあったのか、なぜ亡くなった人がこの世に再び現れたのか、すべてに理由があるはずだ。ひとつひとつの話を詳しく読み解くことは、被災者が負った心の傷を明らかにする一端にもなるだろう。
そういう意味で、本書はただの怪談本ではなく、被災者や犠牲になった人が直面している問題を従来とは別の視点で明らかにしたといえる。客観的なデータや数字も大事だが、震災にあった人々の内面に何が起きているのかを現象として知りたいという人は、本書がその助けとなることは間違いない。
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