昆虫を愛でることができるのは日本人だけだった!! 五箇公一が語る「生物学的に世界でも特殊な日本人」
国立環境研究所の外来生物研究プロジェクト・リーダーである五箇公一(ごかこういち)先生に、地球環境保護の基礎となる大きなテーマ“生物多様性”を全6回にわたり解説してもらうシリーズ第5回。今回は、人間がいかに環境保護をしながら生きていくかがテーマだ。実は日本人の歴史にヒントが隠されていた?
【第1回 生物多様性について】
【第2回 昆虫宇宙紀元説と殺人ヒアリ】
【第3回 最強の生物は何? 火星の生物と、未知なる生命体の探求】
【第4回 東京五輪でのウイルスパンデミックの可能性】
■日本の“縄文時代”の素晴らしさ
―人口が爆発して、これから人間はどうしていけばいいのでしょうか?
五箇 実はキーワードは“日本人の歴史”なんです。300年以上鎖国して、小さな島国で里山という村社会を形成していた。なにも消費せず、排出しない。ゼロ・エミッションゼロコンサプションの農業、林業、水産業中心の循環型社会を作っていた。
具体的には、雑木林で木のエネルギーを使い、有機物で畑や田んぼを作るという生物の自然の恵みだけで生きてきた時代がありました。明治時代以前までは海で隔てられた島国でひきこもっていたわけです。それでいて世界最大級のメトロポリタン・江戸を作ることもできた。さらに驚くべきことに日本の縄文時代は1万年、生活様式が変わらないまま10世紀続いていたことから、どれだけ持続的な文化だったのかがわかりますよね。そして、縄文時代はその時代に住む人たちにとって、すべてに満ち足りていたと考えられます。なぜなら、大陸から農耕文化が入ってきたにもかかわらず、すぐにはそれを受け入れずに狩猟・採集だけで1万年過ごしていたからです。文化が遅れていたわけではなく、建築様式も進んでおり、実は縄文土器は弥生土器よりも複雑だった。しかも中国最古の土器より古いものが日本から出土している。
——なるほど。日本が最古とは知りませんでした。
五箇 1万年という年月で日本人の無我無欲さがわかります。また日本人という人種だからこそできたのかもしれません。特殊といえば、世界中で日本だけが「クワガタムシを飼育して愛でる」という文化的な趣味を持っているんです。私がクワガタムシの多様性の研究をしているときに、海外で研究成果を発表するとほかの国の研究者たちからは「昆虫をペットにする意味がわからない」と言われました。同じくスズムシもそうですね。日本人は飼育が好きで、生物や自然に対する愛好心が高い民族です。ほかの国の民族にとって、自然とは征服すべきもの、狩猟すべきものとする文化が多いのですが、一方で、日本人にとって自然は古来より「愛でる」もの、「共生する」ものとする習性がある。それは日本人の性格が自然順応型だったからと考えられるますが、たまたまそういう遺伝子を持ったからです。アジアの端で、大陸の武闘派主流の民族から外れて、海を渡って流れ着いたマイルドな民族が日本人の起源となったのかもしれない。
——日本人の自然の愛し方は特殊なんですね。
五箇 単一民族の歴史としては、恐ろしく長く今も続いている。かつて日本人の祖先が渡って来たとき、山も川も険しく、住める平野も少なく、台風や地震や火山など天変地異も絶えないこの小さな島国で生き抜くことは、相当に過酷だったと予想されます。生き残るためには自然に従うしかなかったのではないか。そうした日本人史を裏付ける証拠として、この国には八百万(やおよろず)もの神様がいる。神話が生まれた当時の日本人の人口より多いんじゃないかというぐらい神様であふれかえっていた。身の回りの草木、石ころにまで神を宿らせる。映画『もののけ姫』の世界です。すべての自然にもののけがいて、畏怖するとともに自然からの恵みに感謝して生きる。「征服ではなく、順応し、我々人間も自然の流れの一部として生きる」。これが日本人の生き方だとすると、これからの人間社会の生き方のヒントを日本人が持っている可能性がある。
今、輸入資材と輸入文化に依存している日本社会はもったいない。もっと日本人自身が日本のよさや固有性に目を向けるべきです。日本の侘び寂び、文化の良さを日本人が忘れ、むしろ海外から訪れた外国人のほうが気付き、継承しているケースも少なくない。実は「縄文時代1万年説」を発見したのもイギリス人研究者だったんです。
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