306人を乗せた巨大軍艦が忽然と消えた —— 1世紀以上たっても遺体も残骸も見つからないUSS「サイクロプス」号の謎

戦時下の大西洋で、全長165メートルの巨大な軍艦が、乗員306人もろとも空気のように消えた。救難信号は一切なく、漂流物のひとつも見つからない。沈没を裏付ける残骸も、犠牲者の遺体も、1世紀以上が過ぎた今日に至るまでただの一片すら回収されていないのだ。米海軍が「戦闘以外で失った最大の人命喪失」として記録するこの事件——USS「サイクロプス」号の失踪は、後に語られる「バミューダ・トライアングル」伝説の原型のひとつとして、今なお研究者を悩ませ続けている。
165メートルの巨艦が、海図の上から消えた
USS「サイクロプス」号は1910年に進水した米海軍の大型給炭・補給艦である。全長は約165メートル、満載排水量は約1万9000トンに達する堂々たる艦で、艦隊の燃料や物資を支える縁の下の力持ちだった。
第一次世界大戦のさなかの1918年2月、サイクロプス号はブラジルのリオデジャネイロを出港した。積み荷は約1万800トンに及ぶマンガン鉱石。戦争に必要な物資であると同時に、本来想定される積載量を超える重い荷でもあった。
艦は南米沿岸のサルバドール(バイーア)に立ち寄ったのち、メリーランド州ボルティモアを目指して航行を続けたとされる。ところが、3月初旬に大西洋へ乗り出したのを最後に、艦は二度と港に姿を現さなかった。米海軍は同年6月、この巨艦を正式に「喪失」と宣言する。SOSも、爆発音も、目撃証言もない、あまりにも静かな消失だった。

過積載、亀裂の入ったエンジン、そして嵐——「事故説」が示す兆候
なぜ巨大な軍艦が痕跡ひとつ残さず消えたのか。最も現実的とされるのが、複合的な要因による沈没説だ。
調査ではいくつもの不吉な条件が浮かび上がった。積み荷のマンガン鉱石は、艦が通常運ぶ石炭よりはるかに密度が高く重い。満載のサイクロプス号は喫水が深まり、安全な積載限界を示す「プリムソル・マーク」を超えていたため、予定になかったバルバドスへの寄港を余儀なくされたと伝えられている。さらにエンジンの一基はシリンダーに亀裂が入って稼働せず、片肺状態だったともいう。海軍歴史遺産司令部は後に、艦は「予期せぬ嵐の中でおそらく沈没した」との見解を示した。当該海域では3月10日前後に荒天が記録されており、重い鉱石が湿気を含んで船内で偏れば、艦が急激に傾いて一気に転覆した可能性が指摘されている。
それでもなお、決定的な物証は何ひとつ存在しない。残骸も油膜も、最後の無線すら見つかっていないのだ。
ドイツのUボート、艦長の「裏切り」——膨らんでいった陰謀の影
物証の不在は、いくつもの推測を呼び込んだ。まず疑われたのが、敵国ドイツの潜水艦Uボートによる撃沈や機雷による爆破だ。だがドイツ側は当時、この海域での攻撃への関与を一貫して否定しており、それを裏付ける記録もない。
さらに憶測を呼んだのが、艦長ジョージ・W・ワーリー中佐の出自である。彼はもともとドイツ生まれで、本名はヨハン・フレデリック・ヴィヒマンといった。風変わりな言動への評判も相まって、「艦長がドイツに艦を引き渡したのでは」「反乱が起きたのでは」との噂までささやかれたが、いずれも裏付けを欠く臆測にすぎない。興味深いことに、姉妹艦のUSS「プロテウス」号とUSS「ネレウス」号も、後の第二次世界大戦中に同じ大西洋で行方不明になっている。3隻に共通する構造的な弱点を疑わせるこの符合は、一方で「バミューダ・トライアングル」伝説をふくらませる格好の燃料にもなった。


「いかなる説も満足に説明できない」——謎は今も大西洋の底に
サイクロプス号の失踪は、後年さまざまな書き手によって「バミューダ・トライアングルの代表的事件」として語られるようになった。しかし、艦が消えた正確な海域すら特定できていない以上、それを安易に超常現象へ結びつけるのは早計だろう。
実際、大規模な海軍の調査をもってしても結論は煮え切らず、報告は「数多くの説が提唱されてきたが、失踪を満足に説明できるものはひとつもない」という趣旨で締めくくられている。過積載と嵐による沈没——それが最も理にかなった答えだとしても、なぜ306人もの人間と165メートルの鋼鉄の塊が、板きれ一枚すら残さずに消えうるのか。地球外の力でも敵国の謀略でもなく、ただの嵐だったのかもしれない。だが、その「ただの嵐」が完璧に証明される日まで、サイクロプス号は大西洋の暗い水の底で沈黙を守り続けるのだろう。
参考:Popular Mechanics、ほか
※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。
関連記事
人気連載
“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】
現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...
2024.10.02 20:00心霊306人を乗せた巨大軍艦が忽然と消えた —— 1世紀以上たっても遺体も残骸も見つからないUSS「サイクロプス」号の謎のページです。失踪、沈没、軍艦、消息不明などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで
