小学校で死んだいじめられっ子が目の前に出現! 家族を巻き込んでの“恐怖”に…川奈まり子の実話怪談『僕の左に』
自宅でも圭くんを視界に入れながら生活しはじめた。時折、子どもと同居しているような気持ちがして、怖さが薄れると共に、圭くんに話しかけるようになってきた。
朝食のトーストを食べているときに、「圭くんも食べる?」とか。風呂に入っているときに、「服を脱がないの?」とか。
しかし圭くんはいつも表情が無く、声を発することもなかった。衣服や靴も常に同じで、最期の日の姿を再現しているようだった。
金曜日に、母と電話で圭くんの墓参りの段取りを決めた。
「目の調子はどう? 圭くんの幽霊は、まだ居るの?」
「うん。今も横にいる。もう慣れちゃった。目の方は、だいぶ良くなったよ」
「……諭司はお葬式以来ね。圭くんのお寺に行くの。お母さんとお父さんは三回忌まで行ったけど」
初耳だった。
「えっ! そうなの?」
「思い出させないようにしてきたと言ったでしょう? 諭司の病気がぶり返さないように、ずいぶん気をつかってきた。……なぜ今なのかしらね?」
「僕だって知りたいよ。あれから20年近く経つけど、今までずっと僕の左隣にいたのかな?」
「そういえば、昔、諭司が入院したときに不思議なことがあった。相部屋になった患者さんのご家族から『ご兄弟ですか?』と話しかけられたの。『えっ?』と訊き返したら、『すみません。勘違いでした』と言われて、それっきりになってしまったんだけど、もしかしたら、霊感がある人だったのかも……。諭司のそばに圭くんがいるのが見えて、兄弟が付き添っているのかと思ったんじゃない?」
「そうかもしれないね。そんなことがあったんだ」
「当時は圭くんのお葬式の直後で、諭司は凄く混乱してたから何も憶えていないと思う。でも、すっかり調子が良くなった後にも……。中学生の頃、家族で外食したときに、コップの水がひとつ余計に出されたことがあったよね? そのとき諭司は『幽霊だ!』と笑ってはしゃいでた。だから、ああ、もうすっかり圭くんのことを忘れているんだなと思って、安心したことを憶えてる」
「僕たち、エゴイストだね」と諭司さんは苦笑いして、圭くんに視線を向けた。
「しょうがないよ。自分の子どもがいちばん大切。一時は、圭くんに引っ張られて諭司が死んじゃうんじゃないかって、凄く心配したんだから……」
このときも、圭くんは、電話で話している諭司さんを静かな顔で見上げていた。
「そんな怖いことをしそうな幽霊じゃないよ」と諭司さんは言った。
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