泉鏡花の墓の“お供えの酒”を飲んで寝てたら幽霊が出た!雑司ヶ谷墓地での墓酒体験記【ピスケン新連載】
――編集者と小説家の黄泉比良坂を彷徨う「BURST」元編集長・ ピスケンこと曽根賢の“死ぬまで忘れられない体験”を綴る連載「無軌道狂気の回転男」シリーズ
鬼子母神から五分ほど足をのばすと、雑司ケ谷墓地に入る。広い墓地は樹木が多い。雑木林に墓が埋まっているような眺めだ。
週に2度ほど墓地を散歩する。散歩するのはたいてい午後2時過ぎ。その時刻、墓地に人の姿はまれだ。
コースは決まっている。足はまず、耽美派の小説家・永井荷風の墓を目指す。荷風の墓は、何の変哲もない墓だが、そこだけ生垣に囲まれ外からは見えない。生前同様、墓まで隠遁しているわけだ。その墓前には春先から、ワイン・グラスに赤ワインが半分、供えられている。溺れた羽虫の数だけワインの色は黒く、表面には緑灰色の黴が浮いている。毎度そのグラスを見るたび、どうにかしようと思うのだが、手が出ないでいる。
荷風の墓を右に100メートルほど歩くと、ほぼ同じブロックに、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と、泉鏡花の墓がある。怪談作家と、お化け作家がそろい踏みだ。八雲の墓は数本の低い木を背に、今時分は赤紫のツツジが一群咲き、墓石の古び方とたたずまいに風情がある。日本人以上に「古い日本」を愛した、彼にふさわしい墓だ。
鏡花の墓の上には、大きな傘をさすように楓(かえで)の枝葉がひろがり、昼でもなお、そこら辺りだけ薄暗い。墓石は、通常の倍の背丈があり、すっと屹立した背筋が格調高い。やはり古い日本文化の「孤塁を守る」シンボルだ。
さて、以下はゴールデン・ウイーク明けの出来事である。
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