心霊写真ブームの火付け役・中岡俊哉の“功績”とは!? 地縛霊、霊障、鑑定… 心霊写真で大事なのは「目」ってホント?

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昭和・平成オカルト研究読本』(サイゾー)

 5月1日に新天皇が即位し、令和の世が始まった。この歴史的転換点に合わせ、昭和・平成のスピリチュアル・オカルトをASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)が総括する『昭和・平成オカルト研究読本』がサイゾーから刊行された。資料的価値の極めて高い本書の中から、トカナ編集部が厳選するいくつかのエピソードを掲載する。興味を持った方はぜひ手にとっていただきたい。

【心霊写真ブームと心霊写真本】

 写真に写る顔のようなもの……幽霊のように透けた姿……。

 こうした、いわゆる「心霊写真」のようなものは日本では明治時代からあり、心霊写真という言葉も大正時代にはあった。大正9年(1920年)には心霊写真研究会の代表者だった大和田徳義なる人物が『心霊写真の研究』という本を書いてもいる。

 ところがこの本、タイトルは『心霊写真の研究』となっているものの、掲載されている写真は、たったの5枚しかなかった。心霊写真を扱った本としては、だいぶ物足りない。

 もっと多くの心霊写真を扱った本が出版されるようになるのは、昭和に入って50年近く経った1970年代半ばになってからである。怪奇作家の中岡俊哉が1974年7月に刊行した『恐怖の心霊写真集』(二見書房)がその最初だった。

 それまでにない中岡の心霊写真本は大きな話題を呼ぶ。その結果、同書はシリーズ化され、中岡の本以外にも心霊写真を扱った本が次々と刊行されるようになった。

 いわゆる心霊写真ブームが起きたのである。

 こうしたブームの火付け役となった中岡俊哉の『恐怖の心霊写真集』シリーズとは一体どんなものだったのか?

 また、同シリーズ以降に刊行された他の著者による心霊写真本には一体どんなものがあったのか?

 本稿では、まず、それらを個別に取り上げていく。そして、そこからわかる特徴をまとめ、さらに過去から現在の動向も踏まえて考察していきたい。

■中岡俊哉の『恐怖の心霊写真集』シリーズ

『恐怖の心霊写真集』(中岡俊哉、二見書房、1974年)

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シリーズ第1作『恐怖の心霊写真』の表紙

 本書は日本で最初の心霊写真集で、以降、計7冊出ることになる同名シリーズの第1作にあたる。筆者が持っている1988年の版では、初版の刊行から14年で、47版となっている。相当売れていたようだ。『こっくりさんの父 中岡俊哉のオカルト人生』(新潮社)によれば、シリーズ累計では150万部を売り上げたという。

 この第1作で取り上げられた心霊写真は、1974年までの10年間に集まってきた約1300枚のうち、本物と考えられる240枚の中から選んだものだという。

 掲載されている心霊写真は、筆者の集計では全部で87枚。そのうち、霊の顔が写っているとされる写真は67枚、動物の霊だというものが1枚、霊の足は1枚、その他(何らかの光など、以降も同様)は18枚だった。写真は全部、白黒である。

 一応、心霊写真は中岡俊哉によって鑑定されていることになっているが、その書き方は「地縛霊であろうと考えられている」といったものだったり、単に読者からの話を紹介しているだけだったり、まだ、はっきりとした鑑定スタイルを確立できていなかった。

 ちなみに、中岡俊哉はこの本の序盤で、「お化け」と「幽霊」は別のものであると説明している。「お化け」とは心霊科学でいわれる「地縛(じばく)」で、「ある人が死んだ、あるいは殺された場所に出現する霊魂」だという。典型的な例はお化け屋敷(娯楽施設してのお化け屋敷ではなく、人が死んだりしてお化けが出ると噂される家のこと)だそうだ。

 一方、「幽霊」とは「浮遊(ふゆう)霊」で、「場所に限定されないで出る霊体のこと」だという。

 中岡の心霊写真本では、この地縛霊と浮遊霊という言葉が頻繁に使われる。ただし多くの場合、それらは「霊体」とも表現されており、先の説明に出てきた「お化け」や「幽霊」とは書かれない。そのため、中岡がそうした自分の設定をどこまでちゃんと意識していたのか疑問は残る。

『続 恐怖の心霊写真集』(中岡俊哉、二見書房、1975年)

 1作目の好評を受けて、その約1年後に刊行されたシリーズ第2作目。本作よりカラー写真が掲載されるようになった。

 扱われている写真は、読者から送られてきた700枚の中から選ばれた50枚だという。ただし実際に扱われているのは、霊の顔が写っているとされる写真が48枚、不思議写真(心霊写真とは断定できないが不思議な写真)が3枚、その他は7枚で、合計では50枚を超えてしまっている。

 本作で注目すべきは、「霊体はどこに?」と題された第2章だろうか。この章では最初に写真を紹介する際、ここに霊が写っていますよ、と示す囲みをつけない。まずは読者に推理してもらうわけだが、これが大変難しい。

 単なるシミや、ちょっとした影のようなものを「顔」としてしまうからだ。後で答えを教えられても、すっきりした気持ちはまったく得られない。

『新 恐怖の心霊写真集』(中岡俊哉、二見書房、1977年)

 シリーズ第3作目。読者から鑑定依頼があった約1000枚の写真の中から、約100枚を選び、さらにそこから厳選したものが本作に掲載されている写真だという。

 その内訳は、筆者の集計では、霊の顔が写っているとされるものが94枚、動物の霊が1枚、その他が16枚だった。

『実証 恐怖の心霊写真集』(中岡俊哉、二見書房、1979年)

 シリーズ第4作目。本作では冒頭、写真鑑定の依頼枚数を年ごとに紹介している。それによれば次のとおりだという。

●1974年=約340枚。
●1975年=約1750枚。
●1976年=約2820枚。
●1977年=約2900枚。
●1978年=約3120枚。

 これを見ると中岡俊哉がそれまでのシリーズ本で 説明してきた枚数とは合わない。過去の本がその年の途中で出されたことを考慮しても、おそらく1000枚以上はズレがある(中岡の次男・岡本和明氏は『コックリさんの父 中岡俊哉のオカルト人生』の中で、中岡が生涯に鑑定した写真は3万枚と書いている。だが中岡は第6作の時点で、その前書きにて約4万6000枚を鑑定してきたと書いていた。この場合は万単位のズレになる)。

  実際のところ、中岡や周囲の人たちは写真の枚数を正確には把握できていなかったのではないだろうか。大量に送られてきてしまう写真を見て、大体このくらいではないか、という数字を、その場その場で予想して書いていたのかもしれない。

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『実証 恐怖の心霊写真集』(二見書房)より。中岡俊哉の母の葬式のときに撮られた写真に、その母の亡くなった友人が写っているという。だが、 残念ながら何が写っているのかはわからない。

 ちなみに本作で扱われている写真の内訳は、顔が71枚、手が1枚、動物の霊が2枚、その他は25枚だった。

 また本作からは、扱っている写真の供養が始まった(供養は寺で念仏を唱えてもらう方法)。実は中岡はシリーズ第3作目まで、心霊写真による霊障というものを否定していた。

 特に前作では、「心霊写真を撮ったり、持っていることによって何か不幸が起きるのではないかという考え方は古い迷信」で、「現代人なら、古い迷信を打ち破っていかなければいけない」とまで書いていたほどである。

 それが一転、本作では霊障を認め、供養を始めだした。その理由は本作の執筆中から、身体の具合が悪くなることが度々起きたからだという。

 そのため以降の本では、掲載写真はすべて供養済みと書かれるようになった。

『地縛霊 恐怖の心霊写真集』(中岡俊哉、二見書房、1982年)

 シリーズ第5作目。タイトルに「地縛霊」とあるように、本作では地縛霊が写ったという心霊写真を特集している。

 扱われている写真は、過去3年の間に鑑定依頼があった2000枚の中から選んだものだという。筆者の調べでは、内訳は、顔が63枚、手が3枚、足が1枚、その他は10枚だった。

 本作から、希望者には「正式な鑑定証」なるものを発行するようになり、霊障の有無を至急鑑定する場合は有料になった。

『鑑定入門 恐怖の心霊写真集』(中岡俊哉、二見書房、1983年)

 シリーズ第6作目。本作では扱われている写真の内訳が、霊の顔が写っているとされるものは51枚、手が1枚、足が1枚、不思議写真が1枚、心霊写真ではないものが26枚だった。

 これまでと大きく異なるのは、「心霊写真ではない」と否定されている写真が突出して多いことである。なぜだろうか?

 中岡俊哉は、本作のテーマを「鑑定入門」とし、序盤で心霊写真の具体的な鑑定方法(手をかざす「霊気識別法」や、鎖をつけた水晶を垂らす「ダウジング識別法」など)を初めて説明している。それまでは具体的な鑑定方法が不明で、単に中岡がこれは地縛霊、浮遊霊というように断定するだけだった。

 それが本作からは、「○○識別法によれば」というように、もっともらしく説明するスタイルになった。

 中岡は自称専門家として、読者からこれは心霊写真ではないか、と投稿された写真を鑑定する立場にある。何でもホイホイ心霊写真扱いしていては立場がない。

 だからこそ、本作では客観性は皆無だが、自称専門家として自信満々に説明されるともっともらしく見える識別法を披露し、いつもより多くの心霊写真を否定してみせた。そうすることで、「心霊写真の真偽を見分けられる専門家」という印象を読者に与えることができるからだと思われる。

 こうした「非・心霊写真」も取り扱うスタイルは、たとえばタレントの稲川淳二氏や自称霊能者の結城(ゆうき)瞳氏など、他の著者による心霊写真本でも受け継がれていく。

『決定版 恐怖の心霊写真集』(中岡俊哉、二見書房、1986年)

 シリーズ第7作目。『恐怖の心霊写真集』シリーズもこれが最後となった。本作で取り上げられている写真は、過去3年の間に鑑定依頼があった約9000枚のうちから、約100枚を選んだものだという。

 筆者の調べでは、霊の顔が写っているという写真が86枚、不思議写真が4枚、その他は11枚、心霊写真ではないという写真が8枚だった。

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イメージ画像:「Getty Images」

■中岡俊哉がこだわった「顔」の心霊写真

 さて、これで中岡俊哉の『恐怖の心霊写真集』シリーズは終結である。このシリーズで特徴的だったのは、霊の顔が写っているとされる写真が全体の約7割~8割と多いことだろうか。

 なぜ、中岡はこうした写真を多く扱ったのか。『続 恐怖の心霊写真集』(二見書房)では、心霊写真かどうかを見極めるうえで、「目」が大事だと述べている。その目に「気」があるかどうかで、単なるシミか霊体かの違いがわかるという。

 しかし、その「目」や「気」なるものは中岡の主観によるものにすぎない。第三者の立場にある筆者などからすれば、そもそも、どこに「目」があるのかすらわからない写真も多い。

 中岡俊哉はシリーズの第6作で、心霊写真の鑑定は「厳しければ厳しいほどいい」「一般の人が見て、そこに写っているものがすぐに理解できるものでなければ意味がない」「一人でも多くの人が“こじつけ心霊写真”から卒業してもらいたい」と書いていた。

 けれども残念ながら中岡俊哉の識別方法は客観性に欠ける。そのため、結果的に「こじつけ心霊写真」というものを多く生み出すことになってしまったのは中岡俊哉自身だった。

 とはいえ、そうした「こじつけ心霊写真」もまた、中岡の本が売れることによって、心霊写真の典型例のひとつとして認識されるようにもなった。

 中岡俊哉の本ほど多くはないものの、後に続く心霊写真本の著者たちも、似たような写真は扱っている。

 そこでここからは、中岡のシリーズ本以外で代表的な心霊写真の本をいくつかピックアップしてみよう。

(続きは『昭和・平成オカルト研究読本』でお楽しみください)

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本城達也(ほんじょう・たつや)
1979年生まれ。2005年からウェブサイト「超常現象の謎解き」を運営。2007年からはASIOSの発起人として代表を務める。2013年から一般社団法人超常現象情報研究センター会員。超常現象とされるものを調べることがライフワーク。オカルト雑誌『ムー』とは生年月日が1週間の違い。

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文=本城達也

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