”人類滅亡恐怖症”の東大教授が選ぶ「最高の滅亡映画」5選! 隕石・核兵器…狂気の哲学者バートランド・ラッセルが水爆を愛した理由も!
隕石映画の中では第一に、『ファイナル・アワーズ』(2013年)というオーストラリア映画がお勧めです。これ、相当怖いです。何が怖いって、隕石の直撃場所が北大西洋なんです! つまり真っ先に滅亡するのが、ヨーロッパと北米なんですよ! 科学と芸術の根幹を作ってきたヨーロッパ、全世界の尊敬の的だった欧米民主主義、それがまず消滅してしまう。残りの人々からすればのっけから希望喪失、心理的ダメージ大きすぎです!
炎を帯びた巨大津波が地球表面をじわじわ覆ってゆく有様、その報道を、最後の到達場所となるオーストラリアで、なすすべなく人々は聞き続けるわけですね。なんともやるせない静かな恐怖……。
同じパターンのアメリカ映画『エンド・オブ・ザ・ワールド』(2012年)も異様なムードですよ。隕石を爆破するために出動した宇宙船が爆発して乗組員全員死亡、これで希望が消えました、というラジオ報道を主人公が聞くところから映画が始まります。その後で知り合った女とベッドで抱き合ったまま人類最後を迎えるわけですが……。全編ラブコメディ風なので、その違和感のぶん怖さ割増。日常的な(いや必ずしもそうでもない)恋愛模様と、人類終末との圧倒的なギャップが、滅亡の恐怖をベタに引き立てます……。
『エンド・オブ・ザ・ワールド』(2000年)という同じタイトルのオーストラリア映画もあって、テレビ映画にしては重厚に人類滅亡を描いてます。こちらの滅亡は隕石ではなく核戦争。なにせ人類自身の責任による滅亡なので、隕石モノよりも登場人物たちの諦めが悪く、くよくよ考えたり喋ったりしてます。与えられた時間も比較的長い。なにせ押し寄せてくるのは津波ではなく、目に見えない放射能です。最後の避難場所オーストラリアにも、いよいよ北半球から「病気」がやってきて、ひとりまたひとり倒れていく。安らかに死ぬための「薬」の配給所で、人々が行列を作り始めます……。
この映画はリメイクで、元作品は『渚にて』(1959年)というアメリカ映画。その『渚にて』を観て称賛した哲学者バートランド・ラッセル(※)は、自叙伝でその評価を撤回しました。核戦争という嫌悪すべき事柄にふさわしい否定的描き方をしていない、というのがダメ出しの理由のようです。自叙伝の同じ箇所でラッセルは、『渚にて』と比較してスタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』(1963年)を軽く褒めました。核戦争を茶化すブラックコメディは、ラッセルの好みに反するように見えますが……、そこはさすがノーベル文学賞受賞者。映画の芸術的価値で評価したということかもしれません。
※ バートランド・ラッセル Bertrand Russell 1872-1970. イギリスの数学者・哲学者。A.N.ホワイトヘッドとの共著『 プリンキピア・マテマティカ』(1910-13) で数理論理学を確立。「ラッセル・アインシュタイン宣言」(19 55)などで反戦反核運動の先頭に立った。
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