男版モナ・リザ「サルバトール・ムンディ」の謎とは? ダ・ヴィンチの隠された絵をめぐるサウジアラビアの秘密!

 オークションで落札されたレオナルド・ダ・ヴィンチのキリスト画「サルバトール・ムンディ」は今、どこに飾られているのか? その謎の鍵を握るのがサウジアラビアである。

 

■「サルバトール・ムンディ」はどこにあるのか?

 2017年11月15日に、クリスティーズのオークションにかけられ、4億5000万ドル(約500億円)という、美術品として史上最高額で落札された絵画がレオナルド・ダ・ヴィンチ作「サルバトール・ムンディ(Salvator Mundi、世界の救世主の意)」だ。

 青いローブをまとったイエス・キリストの肖像画は、いまだ真贋論争も絶えないが「男性版モナリザ」「ラスト・ダ・ヴィンチ」と呼ばれ、美術愛好家なら誰しも1度は実物を鑑賞したいと思うだろう。落札したのはサウジアラビアの王子といわれているのだが、持ち主の詳細はあまりよくわかっておらず、どこにあるのかも公にはされていない。これが、サウジアラビアの秘密の計画といわれているのだ。

ダ・ヴィンチ作「サルバトール・ムンディ」 画像は「Wikipedia」より


 2017年11月にアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビに開設されたルーブルの海外館である「ルーブル・アブダビ」は、2018年になってこの「サルバトール・ムンディ」を展示するとアナウンスしたのだが、どういうわけか同年秋に一般公開を延期すると発表し、何の説明もないまま今日に至っている。

「サルバトール・ムンディ」はどこにあるのか? そして一般に公開される日は来るのか? 米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」などが伝えるところによると、UAEではなくサウジアラビア当局に、この「サルバトール・ムンディ」を新たな美術館の完成を待って公開する計画があるという。

 これまで公にされてこなかったのだが、サウジアラビアは数十億ドル規模の予算を投じて、世界的に重要な芸術作品を結集した“芸術リゾート構想”を進めているのだという。

 サウジアラビアを世界中の芸術愛好家が訪れる都市にすべく、12を超える主要なアートワーク施設の建設に加えて、小さな美術館などがいくつも建設される予定だという。

 では、なぜ今までこの経緯を秘密にしてきたのか。それは「サルバトール・ムンディ」の“見せ方”を考えなければならかったからであるようだ。美術館の建設を担当する政府のステファノ・カルボニ氏によれば、メインとなるイスラム芸術作品を展示する美術館とは別に西洋芸術作品の美術館を建設し、そこで「サルバトール・ムンディ」を展示する計画があるということだ。

 つまり訴求力と集客力の強い「サルバトール・ムンディ」が、サウジアラビアのアートの象徴にならないように配慮しているのである。

 サウジアラビアの芸術への取り組みは、34歳のモハメッド・ビンサルマン皇太子が率いる石油依存型金融システムの多様化と社会的慣習の自由化への取り組みの一環である。過去数年にわたって、実はサウジアラビアではアート自体はタブーであったが、今では映画館、オペラ、ロックコンサートイベントなどが社会に浸透してきている。

 やや先の話にはなると思うが「サルバトール・ムンディ」は将来、一般公開される日がくることは間違いないようだ。その頃までには各国の人々の渡航が自由になっていることを願うばかりである。

「The Wall Street Journal」の記事より

 

■砂漠で現代アート展が開催される

 ではサウジアラビアで今後、どのようなアート施設がオープンを待っているのか。例えば下記のような計画があるという。

●ジッダ

 西海岸の町であるジッダ(Jeddah)で2022年にオープン予定なのが「Purple Sea Museum」だ。ジェッダが、さまざまな文化と商取引にどのように貢献したかがテーマとなっているという。

●リヤド

 首都・リヤド(Riyadh)には石油の世界遺産を探索する「Black Gold Oil Museum」がオープン予定である。ギャラリーの中心には隕石のようなオブジェが空中に静止した状態で展示されるという。

●アルウラ

 アルウラ(AlUla)には少なくとも7つの小さな博物館があり、オアシスで歴史的な生活を見たり、近くで発掘された彫像や陶器の断片を鑑賞したりできるエリアがある。

 また、サザビーの美術部門を共同で率いたアラン・シュワルツマン氏は、アルウラ王立委員会(RCU)諮問委員会のメンバーであり、アルウラのために現代のアーティストによる新作の制作の支援プログラムに参加している。

「My Modern Met」の記事より

 そしてここアルウラの砂漠では、今年1月31日から3月7日まで「 Desert X AlUla」が開催されていたのだ。

 アルウラ王立委員会がアメリカの現代アート展「Desert X 」と提携して開催されたもので、「Desert X」の最初の国際的なコラボレーションとなる。アルウラの砂漠の大地をキャンバスに参加アーティストによるさまざまなオブジェが展示されて注目を集めた。

 芸術作品の収集だけでなく、アーティストの育成や機会の提供にも力を入れているというサウジアラビアが、近い未来にどのような“芸術立国”になるのか興味深くウォッチしていきたい。

参考:「The Wall Street Journal」、「My Modern Met」ほか

文=仲田しんじ

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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