渡部建、伊藤詩織、木村花…ネットの「誹謗中傷」問題に東大教授が苦言! 議論を避ける「東京大学関係教員有志」への所感も

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画像は「getty images」より

 伊藤が民事裁判に勝ったのは順当と言えますが、それは、民事は刑事より理想主義が認められやすいからにすぎません。現実的に見たならば、一部始終が世間にどう映りがちだったか、伊藤は落ち着いて見直すべきでしょう。枕営業? なるほど一つの見え方をいささか誇張気味に描いたあのイラストの作者・はすみとしこを、伊藤は名誉棄損で訴えました。しかしあの種の争いは、どちらに転んでも良い影響がなさそうというか、本来、言論でやり合うべき事柄でしょう。

 案の定、伊藤の提訴が記者会見で発表されると、はすみとしこに誹謗中傷が殺到したとか。暴力をなくす努力が暴力を生む。アンティファとファシズムの関係そのもの……。

 結局、誹謗中傷と無縁でいられる人はいないということでしょう。私も、とくにここ1年ほど、伊藤や木村に比べれば微々たるものだろうとはいえ多くの誹謗中傷を受けました。しかも、性的マイノリティを誹謗中傷しているという誹謗中傷。(性的逸脱こそ私が最も愛する文化現象なのに、皮肉なことです……)。

 誹謗が始まったきっかけは、私が『トカナ』に書いた一記事[3]に対し、「東京大学関係教員有志」からネット上で、「声明」と称するお叱りを受けたことです[4]。文体上反省すべき点があると気づいた私は感謝を込めた返答文を発表し[5]、「声明」には捏造記事[6]に頼った事実誤認と考察不足があることを指摘して、訂正もしくは反論を要求しました[7]

 ところが驚いたことに、1年以上経過した今になっても、「有志」は訂正も反論もしていない。追記欄に、三浦から返答があった事実すら記していない[8]。あれだけ大仰な陣形を組んで迫りながら、議論は拒む決意のようです。

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三浦俊彦教授

 「有志」のこの態度により、「声明」の本質が明らかになりました。マイノリティ問題改善や支援を意図したものではなく、敵認定対象への〈しばき〉にすぎなかったのです[9]。あの声明それ自体が、後に続く誹謗中傷の最初のものだったとは……。

 あのような多数者同盟が一個人と対峙した場合、男対女の性関係と同じく、力関係からして、多数者の方に厳格かつ誠実な立証責任が課せられるはずです。セックス時に同意があっても、事後の信頼喪失によってレイプと化す。同様に、署名時に正義感を抱いたとしても、その後の対応により、風評加害目的だったと判明してしまう。

「東京大学関係教員有志声明」は、性的マイノリティ支援活動なるものが馬脚を現した「負の事例」[10]として、心ある人々に記憶されてほしいと思います。

 

[3] シスレズビアンに対するトランス女性の性的ハラスメントの現状を論評したエッセイ。https://tocana.jp/2019/05/post_95219_entry.html
[4] http://statementontgarticle.mystrikingly.com/
[5] https://tocana.jp/2019/06/post_98927_entry.html
[6] 内在的矛盾の明らかな捏造記事であり、かくも粗悪な資料参照に何十名もの東大教員が賛同した経緯は、今もって謎である。
[7] 「声明」の内容は、LGBT支援派の責任放棄を象徴している。支援宣伝を真に受けたトランス女性が性自認を真の性別と信じ、そのせいで性的拒絶に遭う羽目になったのに、「声明」は「性的自由は社会的承認とは別問題」と建前のみ唱え、当事者の一次ソースを読むこともなく、性的窮状の訴えを黙殺した。
[8] 「東京大学関係教員有志声明」に触発されて発せられた他の抗議声明はどれも、三浦が返答文を公表した事実を追記している。
[9] 署名者の中には、私の返答発表後ひと月半経っているにもかかわらず、返答前の元記事への抗議活動を新たに始めるよう学生を煽った者もいる。https://twitter.com/akishmz/status/1153916930295656449
[10] LGBT支援がもたらす負の側面は、cotton ceiling、psychic epidemics、Rapid Onset Gender Dysphoria、detransitioning、epistemological violence、gentrification、internalized homophobia、cultural appropriation、gynemimetophiliaなど多種多様だが、「声明」は、それらについての議論を拒むという〈メタ・負の側面〉――反知性主義的なno-platformingの典型例と解釈できる。

 

 

 

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文=三浦俊彦

1959年生まれ。東京大学総合文化研究科博士課程単位取得退学。現在、東京大学文学部教授。専門は、美学・分析哲学。和洋女子大学名誉教授。著書に『バートランド・ラッセル 反核の論理学者:私は如何にして水爆を愛するのをやめたか』 (学芸みらい社、2019年)、『エンドレスエイトの驚愕: ハルヒ@人間原理を考える』(春秋社、2018年)、『改訂版 可能世界の哲学――「存在」と「自己」を考える』(二見文庫、2017年)など。
Twitter:@tmiura_bot

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