【インタビュー】2000人以上に「怪談取材」した男・吉田悠軌が辿り着いた最恐の怪談! 取材中に起きた本当に怖い出来事も!

『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』(KADOKAWA)

 3月12日、実話怪談師になるための世界初の指南書『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』(KADOKAWA)を上梓した著者の吉田悠軌さんにインタビューを行った。業界の第一人者が考える怪談師として成功する秘訣から、実際にあった取材での怖い体験談などを聞いた。

――稲川淳二さんの怪談イベントを見たことがきっかけで、実話怪談をはじめたということですが、もともと怪談はお好きだったんですか?

(吉田悠軌/以下、吉田) いや、怪談は全然好きじゃなかった。バカにしていたぐらいですよ(笑) 正直な話、私は怪談を好きだから始めたのではない。仕事としてやるからにはちゃんとやらないと、という覚悟ではじめたし、それは今も変わりません。「仕事」と「好き嫌い」は関係ないので。

 『一生忘れない怖い話の語り方』では、現代実話怪談史をまとめたりしているわけですけど、これも好きだからやっているというよりは、「そろそろ誰かがやらないと」という大人の責任としてやりました。

――怪談師になることを決めた理由は何でしょうか?

(吉田) 2005年に、稲川さんの怪談イベントに行ったからです。当時の自分は、何もやっていなかった状態だったのですが、とにかく怪談をやりたい、怪談をやろうという気持ちになりました。もちろん稲川さんのイベントは強烈な印象があったけど、それが“やりたい”につながったのは、その時の私の人生のポジションもあったと言う他ないですね。


――このタイミングで実話怪談師のためのハウツー本を出そうと思ったのはなぜですか?

(吉田) 実話怪談の動向を見ていくと、平成の前半15年と後半15年でキレイに分かれているんですよ。平成が終わり、令和に切り替わった今がまさに過去を振り返る絶好のタイミングだったわけです。

 それこそ「怪談」と呼べるものは、おそらく人類が死を自覚するようになってからずっとあリます。日本の文学史を眺めても中世の頃から高度な怪談文学がありますね。ただ、「実話怪談」という狭いジャンルが始まったのは、ちょうど平成が始まったタイミングなんです。平成の前半15年が第1期、後半15年が第2期、そして今が、多くの人が実話怪談業界に参入するようになった第3期が進んでいるところです。

 つまり、現在は多くの人が実話怪談に参加したいと思っているタイミングでもあるので、業界を盛り上げるためにもハウツー本を出しておこうと思ったわけです。帯に稲川淳二さんが「商売敵がまた増える」と書いてくれているのですが、私としては商売敵を作るためにこの本を書いたんですよ(笑) 全体の参加人数が増えて、底上げがされれば良いなと思っています。

――本書には怪談ショーレース大会に対して批判的な言葉がいくつかありますが?

(吉田) これは勘違いして欲しくないんですけど、私はショーレースに反対ではないんですよ。業界を盛り上げるためにもどんどんやった方が良いと思っています。ただ、ショーレースを怪談の本流だとは思って欲しくない。

 ひとつ例をあげると、ネット怪談が衰退していった理由は、話の実話性よりもインパクトに重点を置くようになったからなんです。ショーレースもその方向に行っているのですが、素人が無理やり話の強度をあげようとしても、下手な話にしかならないんですよ。リアリティがなさすぎる。それこそ京極夏彦さんのような天才的な才能があれば別ですが……。

――怪談師として成功する人はどんな人ですか?

(吉田) さっきの私の発言と矛盾していて申し訳ないんですが、基本中の基本は、怪談が好きであること(笑) 怪談好きじゃないのに始める人もいっぱいいると思いますが、好きであることに越したことはないですね。

 ただし、現在の怪談業界のメリットって敷居が低いことなんで、とりあえず好きじゃない人でも誰でもやってもらったら良いと思います。怪談って音楽とか演劇に比べたら楽勝でできるって思うじゃないですか。「誰でもできそう」というね。それこそが現在の怪談業界がもつ強みです。参入のハードルが高い業界は衰退していくものですから。

 あとは人の話を面白がれる人。どんな話でも。あまりスケールが大きくない話でも、あらゆるちっちゃな情報でも面白がって集めたがる人ですね。私はそういうタイプなんですけど、これは性格の問題だから、マストというわけではないです。

――吉田さんが怪談師として重視していることはありますか?

(吉田) 怪談を話す場合は、とにかく「間」を意識しています。間を空けること。焦っていると忘れちゃうんですけど(笑) ただし、間の空けかたが上手くないからといって怖くなくなるわけでもないのが怪談の面白いところです。体験者が自分で語る場合はたどたどしい方が圧倒的に怖い。そういう風に体験者の話を対面で聞くのは、独特の怖さがあります。

 あと、私は取材の時に細かいディテールを引き出すようにしていますね。ディテールを聞き出すっていうのは全体的に必要な作業なんですが、どこまで深掘りするかは人によってまちまちです。私は商品名まで聞き出したい。

――取材で不思議な体験はありましたか?

(吉田) これまで二千人位に取材してきましたけど、特に不思議だったのは、あるSkype取材での出来事ですね。ブードゥー人形の呪にまつわる話を聞いていたんですけど、突然「ドーン」と音がしたんですよ。映像が無いので何が起こったかわからなかったんですけど、神棚が落ちたそうなんです。それもよりによって、前にブードゥー人形を置いていた神棚ですよ。これにはゾッとしましたね。

 あと、それぞれ関係ない話に共通点があったり、繋がりが見えたりすると怖いですね。取材していると、井戸をつぶしたことで怪異が起こるって話がけっこう多い。ある家に色々な不幸があって一家離散して、最終的には火事になる。そういう流れの場合、原因となるのは十中八九「井戸をお祀りせずに埋めたから」なんです。縁もゆかりも無い人たちが、口をそろえて同じ共通点を出してくるのが、本当にぞっとしますね。

――『一生忘れない怖い話の語り方』はどんな人に読んでもらいたいですか?

(吉田) 正直な話、この本は怪談マニア向けに書いていないんです。特に怪談に興味ない人に向けて書いています。私みたいに、「初めは好きでもなんでもないけど、とりあえずやってみたい人」に読んでもらいたいですね。好きでもなんでもない人がやれることが怪談の素晴らしさの一つですから。

――ありがとうございました。

★吉田悠軌(よしだ ゆうき)
怪談研究家。1980年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、ライター・編集活動を開始。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。テレビ番組「クレイジージャーニー」では日本の禁足地を案内するほか各メディアで活躍中。著書に『禁足地巡礼』(扶桑社新書)、『一行怪談』(PHP文芸文庫)など多数。

 

 

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