「クメール呪術」をかけられた妊婦が呪い返し! タイに現存する呪術
■妊婦にかけられた呪い
2021年7月29日付のタイラットオンライン(オンライン版タイラット新聞)に
「妊婦にかけられたクメールの呪詛を解き、呪い返しを行う儀式がとりおこなわれる」
という見出しがおどった。日本では考えられないかもしれないが、大手の新聞社の記事でもこの種類のニュースが載ってしまうのがタイなのである。
ではその記事の内容を見ていこう。
事件が起きたのはイサーン地方と呼ばれるタイ東北部にあるスリン県。南をカンボジアと接しているこの県には、9~15世紀に栄えたクメール王朝の遺跡も残っている。タイの中でもクメール文化の匂いを色濃く残している地域といえるだろう。そのためクメール呪術の使い手も少なくない。
ある日、スリン県サンカ群に住むイッティチャイさん(26)とスヤーニーさん(25)夫妻が帰宅すると、玄関の扉の前に見慣れないものが立てかけてあることに気がついた。近づいて確かめるとそれは、呪術に使用されたと思われる以下の品々だった。
・儀式用の花
・線香2本
・米
・何かの骨2片
これらが、聖糸(タイで聖なる糸と呼ばれている白い糸。仏教儀式でもよく使用される)できっちりとまとめられており、そこに何か文字が書き込まれた紙切れがはさみこまれていた。
そこに書かれていた文字を見た2人は恐怖におののいた。それはปลา(プラー)というスヤーニーさんのニックネームだったからだ。名前の横には「+」という記号も書き込まれている。記号の意味は不明だが、それは2人にとって、この上もなく禍々しいものに感じられた。
これら一式をまとめた聖糸の余りの部分は、先端が家の中に向かうようにして地面を這っている。それはまるで不幸が家の中に入りこむように、用意周到に置かれたようにも見えた。
イッティチャイさんは呪いのターゲットが妻であることが不安でならなかった。なぜならスヤーニーさんは妊婦で臨月を迎えていたからである。不吉な影がお腹の中の新しい家族にまで忍び寄ってきているなら、なんとかしてこの呪いを食い止めねばならない。そこで連絡をとったのが、呪いを解く術を心得ていると噂のパオ師だった。これまでの事情を聞いたパオ師は、以下のような指示を出した。
1. ワーンプライ(生姜科の植物)で聖糸を叩き切る
2. その糸でまとめられていた線香や骨などの一式をたらいで覆いかぶせる
3. さらにそのたらいの上にワーンプライを置いておく
パオ師は、自分が夜に家に出向いて呪いを解く儀式を行うまでその状態を保つように、と伝えて電話を切った。
■呪い返しの儀式
その夜パオ師が家にやってきた。パオ師はまず2人にひび割れた七輪に炭で火をおこすよう命じ、儀式を始めるにあたっての供物として次の一式を用意させた。
・白い布
・ラオカオ(泡盛に似た米からできた酒)
・儀式用の花・蝋燭・線香を5本ずつ
・硬貨を24バーツ
2人はパオ師の指示に従い、それら一式を頭上に掲げ、祈りを込めてパオ師に捧げた。ついに呪い返しの儀式の始まりである。
最初にパオ師は、呪いに使ったと思われる玄関に置かれていた品々を注意深く観察し、それがクメール式黒魔術であることを確信した。師によれば、2片の骨のひとつは鶏の骨であるが、もうひとつは人間の頭蓋骨の額部分だという。それも殺人や事故といった不自然死による死体のもので、これらに呪いを吹き込むことにより、邪悪な気の道が開いて狙われたものが病に冒されるというのだ。
次に、パオ師は聖糸に込められた呪いを解く呪文を唱え、呪いに使われた品々を七輪で順番に焼いていった。この時行われた儀式は、呪いを解くだけでなく、その呪いを施した呪術師のもとにそっくりそのまま送り返すものだった。
すべてのものが燃え尽き儀式を終えると、パオ師は家の玄関扉にさらに呪文を書きつけた。玄関扉と家の周りには聖水を施し、もう一度邪気払いのために米を撒いた。こうして呪い返しの儀式は終わりを告げた。
■妊婦は実験台だったのか?
儀式を終えた数日後、スヤーニーさんはこう語った。
「気のせいかもしれませんが、あれを見つけた日、家に帰るまですごく気分が悪かったんです。しかし、パオ師の儀式が終わってからは体調ももとどおりに良くなって今は安心して生活しています。あの時助けてもらわなかったら、この子もどうなっていたことか……」
お腹をさすりながらインタビューに応じたスヤーニーさんは最後にこう付け加えた。
「でもこんなひどいことをされる覚えが全くないんです」
2人の隣に住む女性トゥアイさんも取材記者にこのように言っている。
「あの夫婦は助け合って雑貨屋を営んでいるんだよ。喧嘩しているところを見たこともないし、村の誰とも問題を起こしたこともない。だから人に恨まれるはずがないんだ。
ただ、先週のことなんだけど、この村のある男が、その雑貨屋で座っているところを見かけたのさ。普段店には来ないのに珍しいなと思ったから覚えている。ひょっとするとあの男の仕業かもしれない。
もしかすると、自分の術を試してみたのかもしれないよ。臨月の女性を呪ったら、どんな結果になるのかを見てみたかっただけだったりして」
興味本位でかけた呪いは、パオ師の儀式によって跳ね返された。自分の身に戻ってきたクメール呪術を解く方法はもうないだろう。自らの愚かな行為を悔やんでももう遅い。少しずつ身を焼かれていくように、その男の人生は死ぬまで苦しみが続くのであろう。
おわかりいただけただろうか。クメール呪術とは現在においてもなお、タイ人の人生を破壊しかねない脅威として、圧倒的な存在感を放っているのである。
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