中世ヨーロッパで多数描かれた「殺人ウサギ」の謎! “逆さまの世界”の猛獣・ドロリーか!?

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 モフモフの白ウサギは可憐でか弱く、どこか純真なイメージを抱かれがちだが、なんとも意外なことに、ヨーロッパには「手にした剣で人間の首を切り落とす」恐怖の“殺人ウサギ”の系譜があるのだ。

■中世の挿絵にさかのぼる“殺人ウサギ”の系譜

 アーサー王伝説をもとにしたパロディ映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル(Monty Python and the Holy Grail)』(1975)の劇中には、外見は愛らしいがその実に狂暴でホラーな“殺人ウサギ”が登場して観る者をゾッとさせるのだが、この危険なウサギの源流は意外なことに中世ヨーロッパにまで遡ることが指摘されている。

中世ヨーロッパで多数描かれた「殺人ウサギ」の謎! 逆さまの世界の猛獣か!?の画像1
「Ancient Origins」の記事より

 動物の皮である羊皮紙で綴じられた手書きの書物は、11世紀の修道院の僧侶によって製作されるようになったが、通常それぞれのページには金と銀の装飾が施されたイラストが描かれていた。

 2016年の「Daily Art Magazine」の研究記事では、このような挿絵に描かれるものは「ドロリー(the drolleries)」と呼ばれる一連の神話上の生き物であることが多く、西暦1250年ほどから描かれはじめ、15世紀の間に人気のピークに達したといわれている。

 この時代でも、一般的にはウサギは純粋さと無力さを体現するアイコンであった。しかしドロリーは次元が逆転した神話的世界の存在であるため、ウサギがしばしば鎧を身につけ、サディスティックかつ残忍な方法で動物や人間を殺害するなど、何をしでかすかわからない暴力的な生物として描かれたのである。

 美術史家、マーガレット・リッカートの1954年の著書『Painting in Britain: The Middle Ages(英国の絵画:中世)』によると、中世の書物には殺人ウサギの他、人間の頭を持った雄鶏、人間の顔をした犬、象の頭を持った鳥のようなドラゴンなども登場するという。そして「Art Magazine Daily」の2022年の記事では、このような表現は中世ヨーロッパにおいて神秘主義、独断主義、そして辛苦に満ちた現実の世界を耐え抜こうとする意図に基づく「笑いの文化」であったことも示唆されている。

「カーニバルのお祝いとジョークでは、権威をマンガ化によって相対化するとともに、現実に対するアンビバレンスを強調するようになりました」(「Art Magazine Daily」より)

 つまり、“殺人ウサギ”は当時の社会を風刺したジョークや文化の鏡であったということだ。決して怖がらせるために描かれたのではなく、そこにはユーモアが含まれていたのだ。

中世ヨーロッパで多数描かれた「殺人ウサギ」の謎! 逆さまの世界の猛獣か!?の画像2
「Ancient Origins」の記事より

■殺人ウサギは“逆さま”の世界の産物!?

「Medieval manuscripts blog」の記事によると、1170年代にドイツのアーンシュタイン修道院で作成された写本に、最初期の“殺人ウサギ”が発見されたという。そこには、2匹のウサギが人間のハンターを絞首台に吊るす絵が描かれている。

 この残虐なシーンも、すべてが逆転した神話的な世界だということを念頭に解釈する必要がある。つまり、現実の世界ではウサギはモフモフした無邪気な獲物であるため、逆さまの世界では人間のハンターを暴力で罰する存在へと変わるのである。

 なお、ハンターとその猟犬に対して過激な暴力を振るう“殺人ウサギ”には、弓の射手や剣士などのいくつかのパターンがある。剣士のウサギが人間を斬首しているイラストもあれば、人間が連れていた犬もまた、彼らに甚振られて首を斬り落とされてしまう。

中世ヨーロッパで多数描かれた「殺人ウサギ」の謎! 逆さまの世界の猛獣か!?の画像3
「Ancient Origins」の記事より

 殺人ウサギのモチーフにはいくつかの解釈があるが、それらはすべて中世の人々が考えた“逆さまの世界”における道徳の逆転が反映されているという共通点がみられる。とはいえ16世紀の“逆さま”とは、正確にはどういう意味なのか?

 ヴィンセント・ロバート・ニクードの2018年の本『Introduction The Sixteenth-Century World Upside Down』によると、「逆さま(upside down)」や「逆(inverse)」という言葉は、「奇妙な(weird)」または「気紛れな(freaky)」という言葉と同じように使われていたということだ。

 中世ヨーロッパの人々は「逆さま」にしてみることで空想を膨らませ、豊かな創作活動を行っていたということになるのかもしれない。獲物であるはずのウサギに追いかけられて矢を放たれ、捕まって首を斬られてしまうという「逆さま」の世界を体験するのは御免こうむりたいものだが、考えてみればこの時代の野生のウサギは普段からこうした目に遭っているのである。決して菜食主義を持ち出すつもりはないが、“殺人ウサギ”にリベンジされないためにも(!?)、無駄な殺生は最小限にとどめるしかないということだろうか。

参考:「Ancient Origins」ほか

文=仲田しんじ

文=仲田しんじ

仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji
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