1人の中の2つの人格が「互いの存在を完全に知らない」と何が起こる? アンセル・ボーンの事例が凄すぎる!
この見知らぬ人とはアパートの大家であったが、目の前にいる男の異変を察し「あなたはアルフレッド・ブラウンであり、2カ月前にペンシルベニアにやって来て、このアパートに住みはじめ、近くに文具店を開いて経営しているのですよ」と諭すように説明した。
しかし、本人は当惑するばかりであった。ペンシルベニアに来たことも、店を開いたこともまったく身に覚えがなく、そもそも今はまだ1月だと思っていた。いよいよ様子がおかしいと感じた大家は、地元の医師を呼んで診てもらったが、身体的な問題は何も見つからかった。
アンセルは医師に、最後の記憶は1月17日のことであり、その日銀行からいくらかのお金を引き出し、いくつかの請求書を支払い、甥の店を訪れ、その後妹の家に馬車で向かったと話した。そして、それから先のことは一切憶えていないのだった。
大家が驚いたことに、その後の調査で、このアルフレッド・ブラウンと名乗っている人物は確かに過去2カ月にわたり行方不明となっているロードアイランド州の牧師、アンセル・ボーンであることが確認されたのだ。アンセルの身の無事がわかり、家族や周囲の人々は安心したものの、当人にとっても周囲にとってもまったく不可解で驚くしかない出来事であった。
その後、心霊研究の専門家がアンセルに催眠術をかけてみると、なんとアルフレッド・ブラウンの人格を呼び起こせることが判明する。そして、そのどちらの人格も、もう一方の人格とその周囲については何も知らないこともわかったのだ。生年月日とその外見以外、まったく共通点のない完全な赤の他人が、1人の肉体に宿っているという驚異的なケースということになる。
多重人格と記憶喪失の融合という前代未聞のレアケースとして当時のニュースでも全国的な話題となり、医師や心理学者たちの注目を集めた。
■きわめてまれな「解離性遁走」とは?
アンセル・ボーンは「解離性遁走」という心理的現象が初めて確認されたケースとされ、個人が自伝的記憶と自己同一性を失う非常にまれな状態であると説明されている。
通常はトラウマ的な出来事がきっけとなって引き起こされた別人格が、周囲から見ても何の問題も起こさずに自律して行動し続け、街をさまよったり、遠くへ旅に出たり、新しい生活を始めたりすることができるのである。この解離性遁走は、かつて多重人格障害と呼ばれた「解離性同一症」のさらにまれな亜種であるとされている。
基本的に我々には複数の役割と周囲からの期待があり、職場や家庭、学校など身を置いた状況においてそれらを使い分けている。その意味では、我々全員が多かれ少なかれ多重人格者なのだが、職場などである役割を果たしている時でも、自分の中の別のキャラクターのことは忘れてはいない。この記憶こそが自己同一性の基礎になってるといえるだろう。その意味で、記憶とは“接着剤”なのだ。
アンセルのケースでは、“接着剤”として2つの人格を橋渡しする記憶がなく、切り離されたまったく別の排他的な人格が共存していると説明することができる。
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2024.10.02 20:00心霊1人の中の2つの人格が「互いの存在を完全に知らない」と何が起こる? アンセル・ボーンの事例が凄すぎる! のページです。多重人格、アイデンティティ、自己同一性、記憶喪失、解離性遁走などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで