夢遊病の殺人鬼は有罪か無罪か? 気づかぬうちに家族を惨殺、料理や運転まで… カナダが震えた衝撃事件
1987年5月24日午前2時過ぎ、カナダ・オンタリオ州ピカリングに住む男、ケネス・ジェームズ・パークス(当時23)は、20キロ離れた同州スカーバローへ車を走らせた。
パークスは妻の両親の家に到着すると、義父母から渡されていた鍵でドアを開けて家の中に侵入。義母のバーバラ・アン・ウッズをタイヤレバーで殴打した後、包丁で刺殺した。さらに、義父のデニス・ウッズを絞殺しようとしたが失敗した。
この後、パークスは最寄りの警察署へ車を走らせ、混乱している様子で「私は誰かを殺したようだ」と訴えた。
■殺人を犯した夢遊病患者に無罪判決が下る
当時、パークスはギャンブル依存症のために深刻な経済的問題を抱えていた。借金返済のため家族の貯金に手を付けただけでなく、仕事で3万ドル(約430万円)を横領したほどだった。1987年3月に横領が発覚して逮捕され、最終的に解雇されていた。これに懲りて数週間はギャンブルを我慢したものの、再びのめり込み、資金を得るために妻の署名を2回偽造もした。
事件の3日前、パークスは初めてギャンブル依存症の人々の自助グループ「ギャンブラーズ・アノニマス」に出席した。また、ギャンブル依存症について妻の両親に話して和解することを決め、24日に実行するつもりだった。
1988年の裁判で、パークスは、自分が犯した殺人は無意識的動作によるものであるため、刑事責任を負わないと主張した。弁護側の医師は、彼が殺人を犯したときの精神状態について証言した。それによると、当時のパークスは夢遊病で、神経学的もしくは精神的な病気ではなかったが、睡眠障害を患っていたと診断されたという。神経学の専門家5人も、パークスが事件時に夢遊病だったことを確認した。陪審員は9時間の審議の末、パークスを無罪とした。
検察はこの判決をばかげていると考えて上訴した。1992年、最高裁判所では夢遊病による無意識的動作が精神障害とは無関係なのか、それとも精神障害によるものなのかが争われ、無罪判決の正当性について最終的な判断が下された。裁判所は、証拠を検討した結果、パークスが自発的に行動したという主張に合理的な疑いが残ったため、無罪判決を支持した。
■夢遊病患者は車の運転や料理もできる
夢遊病は子供では一般的にみられる。約15%の子供が何らかの形で夢遊病を経験するが、通常は他人への攻撃につながらず、何事もなくベッドに戻るだけである。そして、成長するにつれて夢遊病の症状はなくなる。
一方、大人の夢遊病はかなり少ない。ただし、子供の場合とは異なり、他人に起こされそうになると敵対的で攻撃的な行動をとる傾向があり、これは多くの研究で報告されている。
1974年には、睡眠中に暴力行為に及んだ成人50人を対象とした調査が行われた。彼らの多くがベッドに放尿したり、子供の頃に目を覚ますことなく徘徊していたこと等が判明した。
パークスの事件以来、脳は一度に眠りに落ちないという仮説を支持する研究が行われてきた。夢遊病患者の脳は、さまざまな部分で眠りにつくプロセスの同期が混乱をきたしている。そのため、患者は何が起こっているのかを理解しないまま話したり、歩いたり、車を運転したり、料理をしたりすることさえできるという。
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