アメコミのキャラクターを実際に目撃?架空の人物が実生活に登場する現象の正体とは…作家が体験暴露、都市伝説は実在… タルパの可能性も

 SF小説やコミックスで描かれる人気キャラクターは本当に実在している!? フィクションではなく実際に存在しているからこそ、あれほどまでに活き活きと描写できるのだという主張が注目を集めているようだ。

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■アメコミのキャラクターを実際に目撃

 サイバーパンクSFの先駆けとの呼び声高い『ニューロマンサー(Neuromancer)』(邦訳、早川文庫)や、キアヌ・リーブス主演のヒット映画『JM』の原作となった『記憶屋ジョニイ(Johnny Mnemonic)』(同/『クローム襲撃』所収)などで有名な人気作家ウィリアム・ギブスンが、かつてツイッターの書き込みの中で、彼の作中の登場人物が“何の前触れもなく”頭の中に割り込んできたことを打ち明けている。

 新作の構想を描いていたところ、『スプーク・カントリー(Spook Country )』(早川書房)などに登場する薬物中毒の異能者、ミルグリムがズカズカと頭の中の考えに入り込んできて勝手にしゃべったというのだ。

 自分が作りあげたはずの架空のキャラクターが、文字通り“一人歩き”している体験を語る作家や芸術家は少なくないようだ。そして頭の中だけでなく、実際に目撃することもあるというから興味深い。

 いわゆる“アメコミ”の原作者として数々のヒット作を手がけたアラン・ムーアは、かつてインタビューの中で、DCコミックスのアメコミに登場するアンチヒーローのジョン・コンスタンティンを実際にロンドンのサンドイッチ店で見かけたことを話している。

「突然、ジョン・コンスタンティンが階段を上がってきたんだ。その風貌は完全にジョン・コンスタンティンだった。こっちへ向かってきた彼は僕の顔を見ていわくありげにニッコリ微笑み、方向を変えて店内の別の場所へと向かっていったんだ」(アラン・ムーア)

By John Paul Leon (author) / DC Comics (publisher) – https://dc.fandom.com/wiki/John_Constantine:_Hellblazer_Vol_1_1, Fair use, Link

 ムーアは“彼”の後を追ってもう一度確かめてみたい気にもなったというが、身の安全を考えて思いとどまったということだ。アンチヒーローでオカルト専門探偵でもあるジョン・コンスタンティンには不用意に近づかないほうが身のためということなのかもしれない。

 ほかにも、DCコミックスの『ヘルブレイザー』にも関わっているイラストレーターのデイヴ・マッキーンは、ニール・ゲイマンが原作を手がけたアメコミ『サンドマン』に登場する女性キャラクターの“デス”を実際に目撃したとかつて話している。

 マッキーンはサンディエゴへ向かう旅の途中で離陸前の旅客機の中で乗客が突然死亡するアクシデントに見舞われて、いったん乗客全員が降りることになったということだが、乗客の中に女性キャラクターのデスの格好をした少女がいたという。似ているというレベルではなくデスそのものであったということだ。

■チベット密教の奥義の“タルパ”なのか?

 SFとスーパーヒーローコミックスのクリエイターの超常現象体験を編纂した書籍『Mutants and Mystics: Science Fiction, Superhero Comics, and the Paranormal』(2011年刊)で、著者のジェフリー・クリパルは、コミック脚本家のダグ・モエンチが体験した戦慄の出来事を紹介している。

 家で脚本を書いていたモエンチだったが、悪役である黒頭巾のサルがヒーローの家に押し入って拳銃を突きつけて強迫するシーンを書き終えたところだったのだが、階下で妻が呼んでいるので執筆を中断して一階へと降りていったという。一階のリビングルームに入った彼がそこで見たものは、フードをかぶった黒装束の男が妻の首に手を回して頭に拳銃を突きつけている光景であったのだ。物語で描いていた光景が現実になってしまったのである。

 これを強いて説明すれば、広い意味で彼が見た“幻覚”ということになるのだが、モエンチは一瞬であれ現実の空間の中ではっきりとこのフードをかぶった黒装束の男を見たということだ。これを単に“幻覚”で片付けてしまっていいのだろうか。

 ギブスンはかつてチベット密教の奥義である“タルパ(tulpa)”について言及したことがあるという。タルパとは、意識を集中させることで無から魔術的な物体や人格のある存在を作り出す秘術である。日本語では“思念体”とも訳されている。

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アレクサンドラ・デビッド=ニール 画像は「Wikipedia」より

 チベット密教研究のパイオニアであり、1928年刊行の『Magic and Mystery in Tibe』(邦訳『チベット魔法の書』徳間書店)著者であるアレクサンドラ・デビッド=ニールは同書の中で、タルパを作りあげた経験を語っている。

「タルパを見ることはほとんどありませんでしたが、私の疑い深さが自分でタルパを作る体験に導いてくれました。私の試みはある程度の成功を遂げたのです」(同書より)

 ニールは意識を集中させることでタルパを1時間ほどは“維持する”ことができたという。人間にもしタルパを作り出せる能力があるのだとすれば、クリエイターたちが架空のキャラクラーに実際に出くわすというのも不思議ではないのかもしれない。

 そしてこのタルパは「スレンダーマン」や「黒い目の子ども(Black Eyed Kids、BEK)」、「口裂け女」などの都市伝説的な存在を裏付ける可能性もはらんでいる。クリエイティビティときわめて深い関係がありそうな、このタルパについての研究がさらに深まることに期待したい。

参考:「Daily Grail」、ほか

 

※当記事は2019年の記事を再編集して掲載しています。

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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