フリーメイソンが「プロの暗殺部隊」を裏で操っていた!? 現職スパイや警察官も関与する前代未聞の殺人裁判が開幕=フランス

「フリーメイソンが影で世界を操っている」
オカルトファンや陰謀論者の間では鉄板のネタだが、よもやそれが「物理的な暗殺部隊の指揮」という形で現実の法廷に持ち込まれる日が来るとは、誰が想像しただろうか。
フランス・パリで先週、あまりにも映画的で恐ろしい裁判が幕を開けた。
被告席に座るのは22人。その中には、フランス対外治安総局(DGSE)の現役スパイ、元国内情報局(DGSI)の防諜幹部、警察官、企業の重役、そしてプロの殺し屋が含まれている。
彼らは、パリ郊外ピュトーにあるフリーメイソンのロッジ(支部)「アタノール」の内部抗争に端を発する、一連の暴力、強盗、そして殺人を請け負う「マフィアネットワーク」を形成していたというのだ。
事実は小説より奇なりを地で行くこの前代未聞の事件の全貌とは。

ビジネスの邪魔者は「国家の敵」として消す
事件が明るみに出たのは2020年7月。ビジネスコーチの女性マリー・エレーヌ・ディニ氏の自宅近くで、銃器を持ったフランス軍パラシュート部隊の隊員2名が逮捕されたことだった。
彼らは取り調べに対し、驚くべき供述をした。
「彼女はイスラエルの諜報機関『モサド』の工作員であり、我々はフランス国家のために彼女を暗殺するよう依頼されたと思っていた」
しかし、捜査の糸をたぐっていくと、そこに「国家の秘密作戦」などは存在しなかった。浮かび上がってきたのは、ディニ氏のビジネス上のライバルであり、フリーメイソン「アタノール・ロッジ」のグランドマスターを務めるジャン・リュック・バグール(69歳)の個人的な恨みだった。
検察によれば、バグールは同じロッジの仲間である実業家フレデリック・ヴァグリオ(53歳)に7万ユーロ(約1300万円)を支払い、ライバルの排除を依頼した。
ヴァグリオは、元DGSIエージェントのダニエル・ボーリューを通じて、セバスチャン・ルロワ率いる「暗殺部隊」にその仕事を下請けに出した。ルロワは軍を退役した警備員で、ボーリューから「これをやれば情報局の情報屋になれる」とそそのかされ、自分が政府のために動いていると本気で信じ込まされていたという。
脅迫、放火、そしてレーサーの死体
この2020年の暗殺未遂をきっかけに、ルロワら暗殺部隊が過去に引き起こした「アタノール・マフィア」の余罪が次々と暴かれていった。彼らの犯罪は、ささいな復讐から徐々にエスカレートし、ついには殺人に行き着いていたのだ。
2018年、フランスの森の中でレーシングドライバーのローラン・パスクアリの遺体が発見された。フランスのメディアによれば、彼はヴァグリオの友人に対する借金を返済しなかったため、この暗殺ネットワークによって「消された」とされている。
さらに2019年には、産業スパイとして女性実業家を路上で襲撃してパソコンを奪ったり、バグールの会社の不正の証拠を見つけた関係者の車に放火したりと、彼らは完全に裏社会の“掃除屋”として機能していたのだ。

「社会を守るべき者たち」の裏の顔
現在、主犯格とされるフリーメイソンのメンバー3人(バグール、ヴァグリオ、ボーリュー)と、暗殺部隊のリーダーであるルロワは、有罪となれば終身刑になると見られている。
ルロワは警察の取り調べに対し「自分は政府のために動いていると信じており、ボーリューに操られていた」と不満を漏らしている。一方のボーリューは警察の勾留中に自殺を図り、現在は障害と集中力低下を抱えているため、彼からどこまで事件の全容が引き出せるかは不透明だ。
被害者ディニ氏の弁護士は、この事件の本当の恐ろしさをこう語る。
「私の依頼人が最も恐怖を感じているのは、この事件の中心人物たち――警察官、元情報局員、そしてフリーメイソンのメンバー――が、本来なら社会の利益のために行動すべき人間たちだということです」
秘密結社のグランドマスターが、カネの力で国家の諜報機関や軍人を動かし、ビジネスの邪魔者を暗殺する。
日本のサスペンスドラマでも「設定を盛りすぎ」とボツにされそうな話だが、フランスの法廷では今後3ヶ月以上にわたって、このリアルな陰謀劇が裁かれることになる。
フリーメイソンは世界を操っているのか? 少なくともパリ郊外のロッジでは、確実に「闇の政府(ディープステート)ごっこ」が現実の血を流していたようだ。裁判の行方から目が離せない。
参考:France 24、Boing Boing、ほか
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