CERNのLHC(大型ハドロン衝突型加速器)が稼働停止! ネットで「時間を操作している」と陰謀論が拡散される理由とは?

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 スイスとフランスの国境をまたぐ地下に、人類史上最大で最も複雑な機械が眠っている。欧州原子核研究機構(CERN)が誇る世界最大の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)だ。

 2026年6月29日、この巨大な機械が約18年間の稼働に幕を下ろし、最後となる「シャットダウン」を行った。数年後に再稼働する際には、大幅にパワーアップした「高輝度LHC(HiLumi)」へと生まれ変わる予定だ。

 ところが、CERNがこのシャットダウンをSNSで発表した途端、ネット上の陰謀論者たちが大騒ぎを始めた。「CERNが時間を操作している!」「機械が止まってから、時間の進み方が遅くなった(あるいは速くなった)気がする!」というのだ。

「CERNは実在するに違いない」という謎のツッコミ

 ネット上のコメントの中で最も面白かったのは、「CERNは実在する組織に違いない」という謎の確信に満ちた書き込みだ。

 結論から言えば、CERNはゴリゴリに実在する。スイスに行けば見学できるし、何よりあなたが今この記事を読めているのも、CERNの科学者が世界中に情報を行き渡らせるために「World Wide Web(WWW)」を発明してくれたおかげである。

 しかし、なぜCERNはこれほどまでに陰謀論のターゲットにされるのだろうか。

「LHCで粒子を衝突させると、ブラックホールが生まれて地球が飲み込まれる」といった終末論から、「異次元へのポータルを開こうとしている」といったオカルト説まで、LHCの稼働中には常に不穏な噂がつきまとってきた。

 皮肉なことに、宇宙の超大質量ブラックホールなどが自然に生み出す「天然の粒子加速」は、LHCが衝突させている粒子の10万倍ものエネルギーを持っている。地球は毎日、宇宙からの超高エネルギー粒子(宇宙線)を浴びているが、今のところブラックホールに飲み込まれたりはしていない。

some amazing things happening over on threads — ever since they “shut down CERN”

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— Cabel Sasser (@cabel.panic.com) 2026年7月2日 15:19

1周27キロの地下トンネルで光速の99.9999991%を出す機械

 CERNで「LHCの起動ボタンを押す男」として知られるレンデ・スティーレンバーグ氏は、この巨大な機械の仕組みをこう説明する。

「LHCは地下100メートルにある、1周27キロメートル(山手線とほぼ同じ長さ)のリングです。強力な磁石を使って陽子を光の速度の99.9999991%まで加速させ、反対方向から来る陽子と正面衝突させるのです」

 この想像を絶するスピードとエネルギーで粒子を衝突させることで、宇宙が誕生したビッグバン直後の状態を人工的に作り出し、物質の根源(ヒッグス粒子など)を探るのがLHCの真の目的である。時間を操作したり、パラレルワールドへの扉を開くための機械ではないのだ。

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LHC用CMS検出器 By TighefOwn work, CC BY-SA 3.0, Link

そもそも「時間」とは何なのか?

 陰謀論者たちが「CERNが時間を操っている」と騒ぐのも、ある意味では無理はない。なぜなら、最先端の物理学において「時間とは何か」という問いは、未だに完全には解明されていない最大のミステリーだからだ。

 私たちは「時間は過去から未来へ一方通行で流れるもの」だと感じている。しかし、物理法則の多くは「時間が逆戻りしても」計算上は成立してしまう。

 私たちが感じる「時間の矢(未来へ進む感覚)」は、コップの水に垂らしたインクが混ざっていくように、物事は常に秩序ある状態から無秩序(カオス)な状態へと進むという「熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)」の結果に過ぎないのかもしれない。

 さらに、アインシュタインの相対性理論によれば、時間は「絶対的なもの」ではない。移動するスピードが速いほど、そして重力が強いほど、時間の進み方は遅くなる。事実、地球の中心(コア)は表面よりも重力が強いため、私たちより「約2.5歳若い」ことがわかっている。

「時間が遅く感じる」本当の理由

 もしあなたがLHCのパイプの中を「光速の99.9999991%」で飛んでいる陽子であれば、たしかにあなたの時間は、外の世界にいる私たちよりも遅く進むだろう。アインシュタインの理論通りだ。

 しかし、ただの人間であり、CERNの地下トンネルを光速で走っていないのであれば、時間は他の全人類と同じように進んでいる。(厳密には、山の上に住んでいるか海辺に住んでいるかの標高差で、1秒の何十億分の一だけズレるかもしれないが)。

 CERNの機械が止まってから「時間が長く(あるいは短く)感じる」という人がいるとすれば、それは彼らが「時間を操作されている」という説に過敏になり、自分の感覚(プラセボ効果)に騙されているだけだ。

 物理学者たちは間違いなく「時間をコントロールする機械」を作りたいと夢見ているだろうが、残念ながらLHCはただの「めちゃくちゃ巨大な粒子衝突マシン」にすぎない。

 時間をコントロールされていると感じている人にとっては、次にLHCが高輝度版(HiLumi)として再稼働する2030年半ばまで、少しだけ退屈な時間を過ごすことになりそうだ。

参考:IFLScience、ほか

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