老いた心臓が若い体の中で「若返った」!? 移植された臓器は新しい持ち主の年齢に合わせて“体内時計”を書き換える

移植された心臓が、新しい持ち主の年齢に合わせて「歳を取り直す」。そんなSFめいた現象を示す研究結果が、英科学誌『Nature』に掲載された。
高齢ドナーの心臓を若い患者に移すと、心臓の生物学的な年齢が若返る兆候を見せた。反対に、若い心臓を高齢の体に移すと、老化のスピードが速まったという。臓器の「年齢」は、生まれ持ったものではなく、置かれた体が決めているのかもしれない。
マウスの心臓で起きた「体内時計」の書き換え
研究チームはまず、3つの異なる年齢層のマウスを使い、心臓を別の個体に移植する実験を行った。手術から4〜6カ月後に組織を調べたところ、移植された心臓の「DNAメチル化」のパターンが大きく変化していたという。
DNAメチル化とは、遺伝子に付く化学的な目印のことで、細胞がどれだけ老いているかを測る指標として老化研究で広く使われている。いわば細胞に刻まれた年輪のようなものだ。
その年輪が、ドナーではなく移植先の体の時計に合わせて刻み直されていた。若い体に入った心臓は若い側へ、老いた体に入った心臓は老いた側へと引き寄せられたことになる。
ヒトの心臓移植11件でも同じ傾向が
では、人間でも同じことが起きるのか。筆頭著者のジェシー・ポガニク博士らは、米ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院で行われた11件の心臓移植について、生検サンプルを分析した。ドナーと患者の年齢差は8歳から50歳まで開いていた。
結果は、マウスで見られた現象とまったく同じだったと博士は驚きを語っている。
さらに術後1年の電子カルテを調べると、心拍数や心筋の厚さ、運動能力といった指標が、ドナーの元の年齢よりも患者の年齢に近い値を示していたという。
ただし博士は、すべての機能指標が予測どおりに動いたわけではないと慎重な姿勢も見せている。一部の身体的な変化は元に戻らないままだった。また、心臓の時計が書き換わる一方で、患者のほかの臓器の生物学的年齢には変化が見られなかったことも確認されている。
「若返りの泉」の手がかりは血液にあるのか
この研究に強い関心を示したのが、米メリーランド大学の外科医バートリー・グリフィス博士だ。世界で初めて遺伝子改変ブタの心臓をヒトに移植した執刀医として知られる人物である。
グリフィス博士は、この成果が老化の仕組みや、血液中の因子が持つ作用を探る新しい科学の流れに沿うものだと評価した。その血中因子こそ、「若返りの泉」の答えを握っているかもしれないというのだ。
臨床面での影響も小さくない。これまで心臓外科医は、高齢ドナーの心臓を若い患者に移植することに慎重だった。だが今回の知見は、そうした長年の前提を揺さぶる可能性がある。博士は、移植を待つ若い患者のために、高齢ドナーの心臓、ひいてはあらゆる臓器の活用が広がるかもしれないと期待を寄せている。
もちろん、ヒトのデータはわずか11件にすぎず、「若い体に移せば臓器は必ず若返る」と言える段階ではない。老化そのものを巻き戻す技術にたどり着くまでには、さらなる検証が欠かせないだろう。
それでも、若い心臓が老いた体の中で急速に歳を取る様子は、玉手箱を開けた浦島太郎を思わせる。臓器の時計を進めも戻しもする「何か」が、私たちの血の中を流れている。古来人類が探し求めてきた若返りの泉は、案外すぐそばにあるのかもしれない。
参考:The Independent、ほか
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