【TOCANA的UMAファイル #26】「ケサランパサラン」 ── 雨を呼ぶ“石”から、雷とともに降る綿毛へ。姿を取り替えてきた幸運の毛玉

穴を開けた桐の箱に入れ、白粉(おしろい)を与えると増える。年に一度しか覗いてはいけない。そんな飼育マニュアルまで伝わる白い毛玉の名前をさかのぼると、江戸の百科事典で行き当たるのは、獣の腹から出てくる“石”なのだ。
基本データ
名前:ケサランパサラン(ケセランパサラン、テンサラバサラなどとも)
生息地:東北地方を中心に全国。発祥は宮城とも山形ともいわれる
初出:江戸時代以降の民間伝承とされる。全国区になったのは1970年代
姿:タンポポの綿毛やウサギの尻尾のような白い毛玉。空中を漂い、東北では嵐の前に雷とともに降ってくるとも伝わる
掟(伝承):年に2回以上見ると効果が消える、人に見せてはいけない
由来:スペイン語「ケ・セラ・セラ」説、梵語「袈裟羅・婆裟羅」説、東北方言説など諸説ある
事件簿
1970年代、ケサランパサランは小学生の女子たちのあいだで一気に広まった。昭和レトロ系ライターの初見健一氏によれば、当時の子どもたちは桐の箱の代わりにサンリオの小瓶や缶を使い、白粉の代わりに小麦粉や片栗粉を与えていたそうだ。「増えた!」と騒ぐ子がいる一方、男子は「ただの花の種じゃん」と冷ややかで、ブーム自体も同氏の記憶では1か月ほどで去ったという。ツチノコと並ぶとまで言われた割に、驚くほど足が速い。
2016年には、埼玉県日高市の78歳の男性宅の軒先に、直径3〜4cmの白い毛玉が飛んできた。持ち込んだ先は、狭山市の智光山公園にある「緑の相談所」。植物の相談窓口が出した答えは「世に言うケサランパサランに違いない」というお墨付きだったと、地元紙が報じている。男性は「少しの風でも浮き上がり、どこかへ飛んでいきそうになる」と大事にしていたそうだ。
ホントカナ?
正体候補は三つの界にまたがる。猛禽類が小動物を食べたあとに出す毛の塊(動物)、ガガイモやアザミの綿毛(植物)、そしてオーケン石という繊維状の鉱物(鉱物)。白粉で“増える”のは綿状のカビの仕業ではないか、との説まである。拾われる毛玉ごとに中身が違うのだから、答えは一つに絞れない。
だが名前のほうをたどると、話はさらにねじれる。1712年の『和漢三才図会』には「鮓荅(へいさらばさら)」という白い玉が載っている。動物の肝臓や胆嚢にできるもので、蒙古では雨乞いに、オランダでは解毒の薬に使われたと記されている。『日本国語大辞典』によれば、「ヘイサラバサラ」はポルトガル語の pedra(石)と bezoar(結石)を重ねた語で、雨乞いのまじないにも用いられた。ケサランパサランの名は、この語と根が同じとする説が有力とされる。
つまり、日本一フワフワしたUMAの名前の先祖は、獣の腹から出てくる硬い石かもしれないのだ。石から綿毛へ、姿は正反対に化けた。それでも片や雨を呼ぶ石、片や雷とともに降る毛玉。白くて丸く、持ち主を助け、なぜか天気との縁だけは300年切れていない。体ごと入れ替わりながら同じ役目だけを引き継いできたのだとしたら、これは正体不明の生き物というより、正体を取り替え続けてきた生き物なのかもしれない。

TOCANA的まとめ
なぜ東北で、この毛玉はこれほど大切にされてきたのか。東北の旧家には、娘が嫁ぐとき、母がケサランパサランを小分けして持たせたという言い伝えがある。増えるからこそ分けられ、分けた先でまた増える。人に見せず、年に一度だけそっと覗く。証明しなくていい幸せを、家から家へ手渡すための器だったのだろう。綿毛の舞う季節に東北の町を歩けば、軒先にふわりと白いものが降りてくるかもしれない。
トリビア
実物を展示してきた山口敏太郎氏によれば、来場者からは「同じものを見たことがある」という報告が多く、しかも「ゴミだと思って捨ててしまった」という声をよく聞くそうだ。目撃数はUMAとしては異例の多さだが、その多くはいまごろ掃除機の中かもしれない。
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