僕は妖怪になります、たとえ人生が狂っても ― 現実に生きる本気の妖怪・加藤志異インタビュー

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 古くは人里を離れ、それこそ妖怪が棲む土地といわれた武蔵野。現在は発展し、特に吉祥寺はサブカル・アニメの街としても知られている。その場所で「夢は必ずかなう。僕は妖怪になる!」と独自の演説活動を展開する男がいる。

 加藤志異(かとう しい)1975年生まれ。絵本作家としても知られ、これまでに『とりかえちゃん』(絵/本秀康・文溪堂)『せかいいちたかいすべりだい』(絵/山崎克己・大日本図書)など5冊の本を世に送り出す人物だ。

 また、彼を主人公にしたドキュメンタリー映画『加藤くんからのメッセージ』(監督綿毛・ 配給東風)も東京を皮切りに全国4都市で劇場公開され、暑苦しく、奇妙な言説は引きこもりたちに勇気を与え、好事家の目を引きつけた。

 映画の予告編に彼の魅力がつまっているので、ぜひ見ていただきたい。

 今回は妖怪・加藤志異の半生を振り返りつつのインタビューとなった。実は著者は加藤氏の10年来の友人で、時折厳しめのツッコミが入っているのはその関係性ゆえである。


■現代社会に妖怪がいると思いますか?

――まず、「妖怪になろう」と思ったキッカケを教えてください。

加藤志異氏(以下、加藤):逆に質問をしていいですか? 皆さんは、現代社会のどこに妖怪がいると思いますか?

――山とか川とかですかね?

加藤:うーん。僕は絵本とか漫画とか2次元の世界にいると思うんです。たとえば「妖怪ウォッチ」や「ゲゲゲの鬼太郎」みたいに。だけど、それはやっぱり妄想、想像の世界ですよね。そうではなく、僕は現実の世界に妖怪を現そうと思うんですよ。

――ちょっとおっしゃっている意味が……。

加藤:究極の形として、僕は“生きる絵本”になりたい。僕自身が妖怪になることで、絵本の世界と現実の世界の境界をなくしたいんですね。

――なるほど。ところで、加藤さんが初めに妖怪を意識したのはいつ頃ですか?

加藤:僕は岐阜の山奥の生まれで、自宅は明治時代から続くわらぶき屋根の家で、近くにふくろうが飛んでいるような所で育ったんです。子どものころ、本屋で買ったのが水木しげるの『妖怪《世界編》入門』(小学館)。世界中の妖怪が描かれているのを見て、これは本当だと信じこみましたね。

――それを今でも信じていると?

加藤:信じたいんだけど、年月が経つにつれて、信じられなくなっていきました。だけど「サンタはいない」と思うようなつまらない大人になって、ピュアな気持ちを忘れたころに荒川修作さんと出会いました。荒川さんはアーティストであり、コーデノロジスト(芸術・哲学・科学を統合し、実践する人)でした。彼の講演会に行って、非常に感銘を受けたのです。
 荒川さんの建築作品には『三鷹天命反転住宅』、『養老天命反転地』というものがあります。“天命反転”を簡単に説明すると死という人間の運命を反転させ乗り越える。つまりそこに住んでいれば死なない家を作ろうとしていたのです。

――それは壮大な思想ですね。それと妖怪がつながるんですか?

加藤:荒川さんは死なないために本気で立ち向かっている。それなら「オレも死ななくなってやろう」と思ったんです。

――加藤さんは今39歳ですよね。日本人男性の平均寿命が80.21歳といわれるので、現状はすぐに死なないとは思いますが。

加藤:実は長年の貧しい食生活のせいで、今、脂肪肝になってしまって……。毎日、牛丼とマックでは、ダメですね。コンビニでバイトしていた時代に、弁当ばかり食べていたことも、たたっているようです。

――妖怪は牛丼やコンビニ弁当を食べるんですか?

加藤:今は朝に野菜ジュースと豆乳。昼は納豆とごはんのお弁当。夜は肉を適当に食べています。妖怪になって不老不死になるのが目標ですから、健康は大事です。逆立ち体操もしていますよ。

 彼の思い描く壮大な理想と思想の後ろに、自称妖怪の生活での壁が見え隠れする。

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