次々と人が死ぬ団地の隣人にまつわる超怖い話 ー 川奈まり子の怪談『隣人たち』

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画像は「Getty Images」より引用

 母子で入居してしばらくした頃、左隣の部屋に住むミヨシという中年女性が、敏則さんたちの部屋に前に住んでいた住人は首吊り自殺したのだと、聞きもしないのに教えてくれたのだという。

 ミヨシさんは訳ありな女性で、「旦那」と呼ぶ男性と同棲していたが、彼には別の場所に家庭があった。妻子を捨ててミヨシさんと駆け落ちし、ここに落ち着いたのだ……という噂が、引っ越してきて少しすると、敏則さんと母の耳にも入ってきた。

 そんな事情があるせいか、ミヨシさんは隣人との交流を好まなかったようだ。

「隣がいなくなって、せいせいしとったのに、物好きな人もおるもんやな。こないなとこに入ってきて、よう寝られるのん? あんたはんとこ、若い女が首吊って死んどるさかいな。知らなかったんおすか? お気の毒なことおすね」

 いきなりそんなことを聞かされて、敏則さんは、とても厭な気持ちになったのだが……。

「怖がったらミヨシさんの思うつぼだと考えました。震えあがらせて引っ越しさせたいわけですよ。母も同じことを思ったようで『気にしぃひんどこ』と言ってました」

 それから少し経って、今度は反対側の右隣の部屋に、マツモトという夫婦が入居してきた。

 マツモト夫妻は2人とも還暦前後の初老だったが、夫婦揃って気性が激しく、荒っぽい言動が目立った。

 廊下にゴミを散らかすなとか、換気扇から厭な匂いが入ってくるのはおまえの家で誰かが煙草を吸ったせいだろうといった言いがかりをつけてきたり、何が気に入らないのか、突然、壁やドアを拳で殴りつけたりするのである。

 おまけに、マツモト家を時折訪ねてくる息子というのがどう見てもヤクザ、孫も町のチンピラ風で、廊下などで偶然会おうものならガンを飛ばしてくる。

 家族が滞在しているときにマツモト家から聞こえてくる声も非常にやかましくて荒々しい。

 おまけに夫婦喧嘩もしょっちゅうで、怒鳴り声や悲鳴が聞こえてこない夜はなかった。

 マツモトの妻は顔に痣や打撲による腫れが目立つことがしばしばあり、敏則さんの母は「マツモトの奥はんは、ようしばかれとるようや」と話していたが、かわいそうに思っても、マツモトのじいさんが恐ろしくて助けてやることもできなかった。……それにまた、マツモトの妻の方も、何かと難癖をつけてくるので同情する気が失せてしまうのだった。

 隣の住人たちが左右両方とも曲者では、たまったものではないだろうと思うのだが、敏則さんと母の経済事情は悪く、そう簡単に引っ越せなかった。

 我慢して慣れてしまうほかなく、実際、慣れた。

 それにまた、その頃は、母は平日の昼間は働きに出ていたし、敏則さんは学校に通っていたから、朝と晩だけ、無事にしのげれば問題がなかったのだ。

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