次々と人が死ぬ団地の隣人にまつわる超怖い話 ー 川奈まり子の怪談『隣人たち』
その音と足音は、その後もずっと深夜になると度々聞こえてきたそうだ。
収まったのは去年のことで、そのときは反対側の壁からコンコンと違う音がして、それきり鳴らなくなった。つまり40年以上も鳴りつづけていたことになり、その間に、ミヨシさんもマツモト夫妻も亡くなった次第だ。
「歳を取ると人間が出来てくるとか、角が取れて丸くなるとか言うでしょう? マツモトの場合は当て嵌まりませんでした!」
年々、言いがかりがエスカレートしてきて、とうとう手を出してくるようになったというのだ。
「今から20年くらい前……90年代の終わり頃から明らかに異常な感じになってきて……。マツモトは80近い老人になっていたはずですが、部屋に侵入してきたり、通りすがりに腕を掴んできたり……。警察沙汰になったのは2001年のことです。長い柄がついた鍬を振り回して襲ってきたんですよ!」
週末の昼間だったそうだ。その日、母は朝からパートに出ていた。仕事が休みだった敏則さんは近所に買い物に行こうと思い、玄関から外に出た。そして鍵を閉めようとしていたところ、隣の部屋からマツモト老人が飛び出してきて、襲い掛かってきたのだった。
「うちの中に上がり込んで、台所で煙草を吸いやがったな! 煙草の吸殻をうちのドアの前に散らかしてなんべん言うてもおんなじことをやりやがって! こっちが叱るさかいわざと嫌がらせして不法侵入しやがって! ぶっ殺してやる!」
ちなみに「煙草の吸殻をドアの前に散らかす」というのは昔からマツモト夫妻が言ってくる文句のひとつだったが、敏則さんも母も煙草は吸わないのである。
「煙草なんて吸うてまへんよ。部屋にも入らへんし」と敏則さんはうんざりしながら言い返した。
マツモト老人は、このときすでに80代で、敏則さんは33歳。後になってみれば、力の差があると思ってなめていた。
しかし、マツモト老人はいつも以上に激昂していて、ドアの陰からガラガラと音をさせて何か引き摺ってきたな、と、思えば、先端に鉄の刃がついた長い鍬だ。「これで貴様をバラバラにしたる! 首を出せ!」
そう叫ぶや鍬を振りあげて迫ってきた。
敏則さんは逃げ切れず、廊下で揉み合いになった。
結局、なんとかして鍬を取り上げようとしていたところへ警察が駆けつけて、マツモト老人を取り押さえたのだった。
「近所の人が通報してくれたようでした。警察官に指摘されて、腕に切り傷を負っていたことに気がつきました。病院で縫わなくてはいけないような結構な怪我だったのに、なぜか傷害事件にはしてもらえませんでした。だからマツモトは、すぐに留置場から帰ってきてしまって……」
それからは、これまで以上にマツモト夫妻に関わらないように、用心しながら暮らすことになった。
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2024.10.02 20:00心霊次々と人が死ぬ団地の隣人にまつわる超怖い話 ー 川奈まり子の怪談『隣人たち』のページです。京都、川奈まり子、情ノ奇譚、隣人トラブルなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで