ミャンマーで本当にあった「幽霊の大引越し」事業とは!? 軍がトラックで幽霊輸送… 霊障連発!

 ネピドーは、2006年にミャンマーの新首都となった。正式な行政都市ではあるものの、日本人には知名度が低いと言わざるを得ない。

■大規模な墓地移転計画で“ゴースト”も引っ越し

 旧首都ヤンゴンから約320キロメートル内陸部にこの人工都市・ネピドーを造成した理由には諸説あり、ヤンゴンが海に近すぎるため浸水の危険があるからとか、「遷都せねば、おまえとおまえの政権は崩壊するだろう」とタン・シュエ前国家元首に占星術師が警告したからなどなど……。

 なにより、ヤンゴンは植民地時代の“亡霊”にさんざん悩まされたわけだから、新都ではそういった一切を完全排除する必要があったはず。だが、一筋縄では行かなかったようだ。

 2010年、だだっ広い平原が着々と開発されつつある中、ミャンマー国軍のアウン・ハント大尉は、タッコン(ネピドーが位置する町の1つ)の墓地移転計画を任されていた。政府はここに修道院と地方裁判所を建設する予定だったので、まずは元からある墓地の移転が急務だったのだ。

 ミャンマーに限らず、墓地移転にはトラブルがつきものだ。愛する者を亡くした親族の心情を察すれば無理もない。だが、この国の墓地撤去は特別で、さらにこのエリアには、より困難な理由があった。墓所と一緒に住み着いた死者たちを埋葬場所から移動させる必要があったのだ。そして、タッコンの墓地の幽霊との死闘が始まった。

 ミャンマーのある宗教学者によれば、「タッコンは第二次世界大戦中、日本兵の埋葬地として役立った」そうだ。なにやら『ビルマの竪琴』(新潮文庫)の物悲しさが漂ってくるが、さらにミャンマーでは、暴力により命を落としたものは「葬式をしても完全には魂が解放されず、霊的な名残が消えない」と考えられているという。

「ミャンマー人は霊魂を恐れている。もし、ゴーストたちがこの場所から動きたくないと怒りをあらわにすれば、町の人々は危険に晒されたでしょう」(ハント大尉)

 そういうわけで、当時タッコンの墓地撤去は決して大げさでなく、命がけの任務だった。では、どうやって遺体を新しい墓地に輸送したか、だ。

■渋るゴーストたちが引き起こす心霊現象の数々

「ミャンマーの幽霊は、重たいですよ」と、大尉はいわくありげに微笑む。この国の幽霊は身長が2メートルはある巨体なのだという。そして、大尉はおもむろに「ゴーストの運搬手段」について語りだした。

「墓を移転した後、政府は幽霊を移動させるためにトラックを調達したんです。精霊師に幽霊を監視させながら、トラックへ誘導したんですよ。12台のトラックを3日間。1日3便運行しました」(ハント大尉)

 この番号は偶然ではない。計108回の旅程をこなしたのだ。「除夜の鐘」同様、108は仏教の法数では吉兆とされているからだ。

 1台のトラックに10人以上のゴーストを載せ、移動する墓は1,000以上もあったという。中には、ほとほと扱いに困るゴーストたちもいて、トラックの最前列を奪い合ったり、すし詰めを嫌い、トラックではなく乗用車でのVIP対応を要求したりなんてことも。

 思い通りにいかないとわかると、さまざまな災難を引き起こしたという。ブルドーザーの故障からネピドー開発公団の職員住宅で飼っていた猫の突然死まで。あるときは、現場作業員の夢枕に3人のゴーストが立ち、「自分たちを置き去りにするな」と抗議したという。翌朝、念のため掘り返した墓地へ戻ってみると、まだ掘り起こされていない古い墓が3基出てきたそうで。

 断っておくが、このような驚愕のトラック便はオカルトでも“お花畑”でもなく、ミャンマーで古来伝わる、れっきとした幽霊対処儀式なのだ。ほぼ半世紀にわたる軍事政権が終わった21世紀のミャンマーだが、伝統は今も息づいているということか。

 ネピドーとは「王都」を意味する。旧軍事政権がゼロから造り上げたメガロポリスは、むやみに広大で人もまばらだ。わざわざ立ち寄るほどの、めぼしい観光地もない。ツアーコンダクターたちは、この町を「ゴーストタウン」と呼ぶ。だが、考えてみれば、これほど皮肉なこともないだろう。なにしろこの町は、ゴーストが1人もいないゴーストタウンなのだから。

参考:「BBC」、「Independent」、ほか

文=佐藤Kay

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