「ハエ叩き」発明の歴史に潜むエピソードが面白すぎる! 亜留間次郎が徹底解説!

「Keep the Well Baby Well」のスローガンと共にカンザス州中に配布されたハエ叩きは、たちまちのうちに大量のハエを駆除して公衆衛生を劇的に改善させたのです。

公衆衛生キャンペーンで配布されたハエたたき。画像は「バージニア大学クロード・ムーア健康科学図書館のアーカイブ」より引用

 ハエ叩きは10年足らずのうちに全米に広まりました。一家に一本ハエ叩きが広まったことにより、大量のハエが駆除され、全米の公衆衛生が大幅に向上しました。

 この功績を称えられ、カンザス州衛生研究所の前にはDr.クランバインの銅像も建てられています。Dr.クランバインはテレビドラマ「ガンスモーク」の登場人物「ドク・ギャレン・アダムス」のモデルにもなりました。

サミュエル・クランバインの銅像。画像は「カンザス州保健委員会(Kansas Health Insurance)ウェブサイト」より引用

 

■ゼニゲバ現れる

 その後、1920年にはハエ叩きの生産数は3億本以上にもなり、劇的に公衆衛生を向上させましたが、ここでとんでもない人物が登場しました。

 実はハエ叩きが配布されるより前に、「ハエ殺し(Fly killer)」というものを発明して特許を取っていた人物がいたのです。

ハエ殺しの特許。画像は「Google Patents」より引用

 ハエ殺しは棒の先端に風圧を発生させない網目状の板を取り付けた物で、原理的にはハエ叩きと変わりません。発明者はロバート・R・モントゴメリーという人物で、1899年10月13日に特許出願して特許を取得していたのです。

 しかし、ハエ殺しが製品化されることはなく、モントゴメリーは1903年にジョン・ベネットという人物に特許を売却しています。

 ジョン・ベネットは「ハエ叩き」が特許侵害であるとして、3億本分の特許料300万ドル、現在の金額に換算すれば7500万ドル(約80億円)の支払いを求めました。いわゆるパテント・トロール(patent troll)と呼ばれる、特許権を行使して巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする典型的な特許寄生虫です。

「ハエ殺し」と「ハエ叩き」は見事にそっくりな構造と機能で、ハエを殺す道具という使用目的まで完全一致していました。言い訳の余地が無かったというか、現在のように特許を検索できるネットなど無かった時代だけに、知らなかったのは仕方がないとはいえ、すでに全米に配布されてしまった物だけにどうにもならず、カンザス州は特許料を支払いました。

 ジョン・ベネットが持っていた「ハエ殺し」の特許は、300万ドルで公共財産であるパブリック・パテントとなり、誰でも無償・無許可で使えるようになりました。

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