「mRNA」の注射1本で遺伝子治療が完了する時代まもなく到来へ! 治験で衝撃的効果、ゲノム編集技術CRISPRに画期的進展
ゲノム編集技術「CRISPR」は画期的な医療に活用できる革新的な技術としてサイエンスに多大な貢献をしているが、遺伝子治療における活用にはさらに明るい兆しが差し込んでいるようだ。注射1本で遺伝子治療が完了する日が近いというのだ。
■注射1本で遺伝子治療を完了する技術
ノーベル化学賞を受賞した画期的なゲノム編集技術「CRISPR」だが、遺伝子治療への活用についてはまだまだ高いハードルがあった。
例えば鎌状赤血球症(異常ヘモグロビン症)の治療においては、採取した患者の細胞をラボでゲノム編集し、再び患者の身体に戻すという手順をとる。最先端医療ではあるが治療にはそれなりに時間と労力が要求され、何より費用がかかる点がネックとなっている。
しかし現在、ユニバーシティカレッジロンドン(UCL)が行っている臨床試験はそこへ一石を投じるきわめて有望な第一歩を踏み出すものだ。
試験の参加者は遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスと呼ばれる症状に苦しんでいる患者たちだ。この疾患では遺伝子の変異により不正なタンパク質(トランスサイレチン)が生成され、心臓や神経に蓄積して損傷を与え、最終的には死に至ることになる。
研究チームはCRISPRで作成したタンパク質のmRNAを静脈注射で患者に投与した。血流によって肝臓に運ばれたmRNAが変異遺伝子の“スイッチ”をオフにし、誤ったタンパク質の産生を抑制することに成功したのだ。つまり注射1本で遺伝子治療が完了したのである。
CRISPRでノーベル賞を受賞したひとり、カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授は、バイオテクノロジー企業「Regeneron」と共同で、今回UCLの試験で使用された治療法(NTLA-2001)を開発した「Intellia」を設立している。
「これは患者にとって大きなマイルストーンです。今回のデータは初期のものですが、CRISPRを臨床に適用することで、それを体系的に提供し適切な場所に届けることができるという最大の課題の1つを克服できることを示しています」(ジェニファー・ダウドナ教授)
今回の成果は「New England Journal of Medicine」で報告された試験の中間結果で、きわめて有望なものであった。低用量または高用量のいずれかを投与された6人の患者は、深刻な副作用を報告せず、標的タンパク質の産出は、高用量を与えられたもので最大96パーセント(そして平均87パーセント)減少したのだ。
■何百万人もの遺伝子疾患を救える可能性
世界中で約5万人が罹患しているこの病気、遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスはつい最近まで治療不可能だったという経緯がある。
2018年にFDAに承認された既存の薬は、遺伝子を変えるのではなく、奇形のサイレチンタンパク質を生成するmRNAを抑制するものだ。それらはタンパク質生産を約80%減らし、患者を延命させるものの、すべての人に効果があるわけではなく、継続的な治療も必要としていた。
今回のCRISPRによるアプローチが成功した場合、1回限りの治療になる。つまり遺伝子そのものを標的にすることにより、不正タンパク質は永久に沈黙するのだ。
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