アフガン戦争は「醜く」第二次世界大戦は「美しい」理由を東大教授が解説!

 コントラスト効果は、戦域の内部にも見られます。ヨーロッパ戦域を構成する西部戦域と東部戦域は、前者はスポーツのようなフェアプレイ、後者は民族奴隷化につながる絶滅戦という対比がよく語られますし、アジア戦域を構成する太平洋戦域と中国戦域についても、展開の早い前者と、膠着状態の続いた後者の対比がきわめて鮮烈です。

 対照性は戦域に関わるものだけではありません。たとえば連合国陣営は、戦争への態度において2種類に分かれます。一刻も早い勝利を目標に戦う国々と、戦後の政治を優先課題として、〈早く〉より〈いかに〉に腐心した国々です。前者の代表がアメリカとソ連、後者の代表がイギリスと中国でした。チャーチルにとっては、勝っても大英帝国が守られないなら負け同然。蒋介石にとっては、共産党を潰せないようでは対日戦に勝つ意味なし。とくにイギリスは、自国の世界戦略にアメリカ軍を利用しようと画策し、第二戦線開設の引き延ばしに固執して、米ソ首脳をしばしば激怒させました。ルーズベルトは、チャーチルよりスターリンの方が「馬が合う」と漏らしていたほどです[1]。

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ヤルタ会談。(前列左から)英チャーチル、米ルーズベルト、ソ連スターリン(Wikipedia

 枢軸国の中にもコントラストがありました。政府が戦争方針を主導し、軍を従わせたドイツと、軍が戦争を拡大し、政府が追認していった日本とのコントラストです。ドイツ国防軍がヒトラー暗殺計画を何度も実行しましたが、日本では、政府が軍のコントロール下にあったため、軍が反乱を起こす動機はありませんでした。ドイツに比べて日本がはるかに悲惨でない終戦を迎えられたのは、政府の本質が平和的だったからとも言えるでしょう。

 政府と軍の対立がとくに興味深かったのは、アメリカかもしれません。アメリカ国内では、ヨーロッパ優先戦略とアジア優先戦略が対立し続けました。なにしろアメリカを戦争に引き込んだのは真珠湾攻撃でしたから、海軍と世論は日本への復讐心に燃えました。しかし政府は「ドイツを倒すのが勝利への最短距離」と判断し、チャーチルからの説得もあって、ヨーロッパ優先戦略を早々に決めたのでした。理性が感情を抑えたのです。

 政府と軍の対立に似た構図として、イデオロギー対ナショナリズムがあります。このコントラストが色濃く出たのは、ソ連でした。共産主義で世界恐慌を乗り切り、粛清で軍を支配していたスターリンが、独ソ戦の進展につれて軍人の知恵に謙虚に耳を傾けるようになり(軍への個人的権限を強めていったヒトラーと好対照!)愛国心へのアピールで国民を団結させました。対日戦を始めたときの国民への声明も、なんとイデオロギー的仇敵だった帝政ロシアとソビエトを同一化させ、「日露戦争の仇を討って領土を取り戻そう」というものでした。

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画像は「Getty Images」より

 他方、反共イデオロギーにこだわって国民の統合に失敗したのが中国国民党です。アメリカから見ると、粘り強く抗日戦に励んだ共産党に比べ、国民党は戦後の策に熱中して当面の対日戦に真剣に取り組んでいないように映りました。戦後の国共内戦で蒋介石をアメリカが援助しなかったのは、そのせいでした。

[1] 1945年4月12日にルーズベルト死去により大統領になったトルーマンは反ソ政策に転換し、スターリンをあわてさせた。このコントラストは、アメリカとタリバンの関係が、トランプからバイデンに大統領が代わった途端に変化した事態に似ているかもしれない。

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