アフガン戦争は「醜く」第二次世界大戦は「美しい」理由を東大教授が解説!

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画像は「Getty Images」より

 第二次大戦を語る際に忘れてはならぬこととして、大量殺戮があります。ヨーロッパとアジアにはそれぞれ、象徴的な大殺戮がありました。ホロコーストと原爆投下。この二つのコントラストも強烈です[2]。加害者になんら戦争遂行上のメリットをもたらさず、誇れる大義名分が一つもない暗澹たるホロコーストに対し、原爆投下は、戦争終結という最重要の大義名分を有し、量子力学と相対性理論という20世紀二大科学革命の応用によって平和を即時回復したという、栄光に満ちた作戦でした。「殺戮」という忌まわしい側面においても、鬱々たるヨーロッパと輝かしいアジアの対照性に圧倒されざるをえないのです。

 日独は同盟国でありながら、戦略の相談を全くしていませんでした。ドイツの対ソ奇襲攻撃、日本の対米英奇襲攻撃のいずれも、互いに事前通知することなく断行されました。対して連合国側は、細かい作戦に至るまで綿密な議論を重ねています。日本人は火事場泥棒のようにイメージしがちなソ連の満州侵攻にしても、米英の依頼に応じて入念に準備されたものでした。カイロ会談~テヘラン会談~ヤルタ会談~ポツダム会談と、勝利を前提に戦後処理の手続きまで協議していた連合国陣営に比べると、場当たり的な戦線拡大にのめり込んでいった枢軸国の敗北は、はじめから決まっていたようなものです。最終幕は、原爆投下とソ連参戦とがぴったりシンクロし、核兵器と天皇の玉音という二大超自然が絶妙に響き合う、出来過ぎなほどのクライマックスが演出されました。

 アフガニスタンでアメリカ人民間人を置き去りにしたままアメリカ軍が撤退したと聞くと、どうしても連想されるのは、満州で日本人民間人を放置して一斉退却した関東軍です。アメリカ軍は関東軍のレベルに堕ちてしまったのでしょうか。軍最高司令官バイデンの無能ぶりが露呈したついでに明らかになったのは、現代の地域紛争が、前世紀の総力戦に比べていかに冴えないか、くすんでいるかということです。アフガンに取り残されたアメリカ人は、まさか満州の日本人のように家族ぐるみで自決というような、戦争の非人間性を後々伝える精神主義的エピソードを量産する覚悟など持ちようもないのですから。

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三浦俊彦教授

 時間を経て振り返れば、何事もいくらかは甘美な趣を漂わせそうなところ、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争……どれを振り返ってもパッとしない。今、珍しくアメリカ軍が潰走した形になっているアフガン戦争も、ただ珍しいだけで、美しさは感じられません。

 アフガンの混乱が美しくないという苦情は、的外れではあるでしょう。戦争をテーマにした芸術作品はともかく、戦争そのものに美を求めるのは不謹慎だ、と言われるかもしれません。しかし、バイデンがやらかした今回のこの案件によって、第二次大戦で戦後処理をいかに連合国が(そして日本やドイツ自身が)うまくやり遂げたか、第二次世界大戦全体がいかに例外的に美しかったか――に気づかされたことは事実なのでした。「美的対象としてのWWⅡ」を、わが隠し研究テーマの一つとして登録しておくことにします。

[2] ちなみに、広島と長崎の間にも、「怒りの広島」「祈りの長崎」という対照性が生まれた。

文=三浦俊彦

1959年生まれ。東京大学総合文化研究科博士課程単位取得退学。現在、東京大学文学部教授。専門は、美学・分析哲学。和洋女子大学名誉教授。著書に『バートランド・ラッセル 反核の論理学者:私は如何にして水爆を愛するのをやめたか』 (学芸みらい社、2019年)、『エンドレスエイトの驚愕: ハルヒ@人間原理を考える』(春秋社、2018年)、『改訂版 可能世界の哲学――「存在」と「自己」を考える』(二見文庫、2017年)など。
Twitter:@tmiura_bot

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