肉体を捨てて永遠の命を獲得!? 精神のアップロード技術「全脳エミュレーション」の最先端
永遠の命が実現する日は来るのか――。脳の全情報をすべてコンピュータにアップロードできれば、我々はサイバー空間の中で永遠の命を享受できるのだろうか。
■精神はアップロードできるのか?
2014年の映画『トランセンデンス』で描かれているのが人間の意識をサイバー空間にアップロードすることだが、そのアイデア自体はわりと古くからあるものだ。
全脳エミュレーション(Whole Brain Emulation、WBE)とも呼ばれる“マインドアップロード”という概念は、人の心、理論的にはその人格、及びそれに伴うすべての感情と記憶がマッピングされると共にデジタル化され、サイバー空間にアップロードされることによって肉体を捨てた人間が永遠に生き永らえることが思い描かれている。
しかし、そのようなマインドアップロードは可能なのか。もちろん現状ではいくつもの技術的制約はあるものの、その答えはイエスであることが大方の見方であるようだ。しかしその実現には気の遠くなるような膨大で複雑な情報を扱わなければならない。
典型的な人間の脳は860億から1000億のニューロンで構成されており、各ニューロンは他のニューロンと1万程度の接続を確立している。これらはすべて、125兆を超えるシナプスで構成される大規模で広大なニューラルネットワークとして同時に機能しているのだ。
このように信じられないほどの複雑な脳であるが、3Dレンダリング技術を駆使して理論的には脳の完全なマップを作成できる可能性は高いといわれている。この脳の完全なマップは「コネクトーム(connectome)」と呼ばれ、生物の神経系内の各要素(ニューロン、ニューロン群、領野など)の間の詳細な接続状態を再現したものだ。
最先端の科学は、2014年に実用的なコネクトームを作成している。線虫の脳をマッピングしてソフトウェアとして複製し、ロボットに移植することによって脳を持った“人工生命”を作り出したのだ。この不気味なロボットワームは、まるで本物の線虫のように振る舞い、触れられることで反応し、周囲の環境を調査したり、食べ物に向かって移動したりしたのである。
しかし改めて確認したいのは、このワームには302ニューロンしかないのに対し、人間には860億以上あることだ。一説では脳のすべての情報は平均約2.5ペタバイト(2500TB)の容量があると考えられていて、情報処理を実行するための電力は約1ギガワット、つまり原発1基分の発電能力が必要であるとされている。
当然だが実現はきわめて難しいのだが、理論的には作業を進めていくことは可能であり、この先どこかの時点で技術的なブレイクスルーが起これば人間の脳のコネクトームの実現はさらに早まるかもしれない。
とすれば、それがどれほど先の未来のことであれ、人格が持つ情報をすべてアップロードしてサイバー空間で永遠に生きる日がやってくることになる。それは我々人類にとっての“快挙”ということになるのだろうか。
■アップロードされた脳のコピーに“心”は宿るのか?
しかし話はそうトントン拍子には進まないようだ。それは“心”の問題である。
人間の脳を完全にコピーできたとしても、存在としての我々は単なるシナプスと神経接続の集まりではないだろう。心を構成しているのは周囲の世界との相互作用に加え、見たり、触れたり、嗅いだり、味わったりという体験からも来ている。生物としての肉体的感覚は、脳の化学的性質と同じくらい人間を人間たらしめている要素であるからだ。
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