古の呪いが現代まで続く沖縄のリアリティ 怪談作家・小原猛インタビュー(後編)

 9月29日発売の『沖縄怪談 耳切坊主の呪い』(竹書房)の著者、小原猛氏にインタビューを敢行。後編では伝承と現代がつながる沖縄のリアリティについてお聞きした。耳切坊主についてうかがった前編はコチラ

——新作では琉球奇譚から「沖縄怪談」へとタイトルが変わった理由は何ですか?

(小原猛、以下小原) 今まで琉球奇譚/怪談として語ってきましたが、今回は「沖縄怪談」として出しました。前著『沖縄怪異譚大全 いにしえからの都市伝説』では、沖縄の市町村史から口伝・民話まで徹底的に渉猟して掘り下げたんです。だから今回の『耳切坊主の呪い』では現代の怪奇譚を多めに収録しています。

古の呪いが現代まで続く沖縄のリアリティ 怪談作家・小原猛インタビュー(後編)の画像1
『沖縄怪異譚大全 いにしえからの都市伝説』(ボーダーインク)

 琉球から沖縄へ。統治者や時代が変わっても、沖縄では、神々と人々、歴史・神話と21世紀の現代社会が地続きで繋がっているんです。この事実、実感を何とかして伝えたい、消えていく前に残したいと思った。

 たとえば「クシデージの神」と「ピトゥトゥルマジムン」を新刊で紹介しています。「クシデージの神」は、粟国島に伝わる目と鼻がない神様です。「ピトゥトゥルマジムン」は、ユタから聞いた話で、髪の長い虚ろな赤い目をした女の顔をもつ灰色の大蛇で「人を捕るマジムン(妖怪)」です。いずれも関係者は、私たちと同じ現代人なんです。古代や中世の話ではなくて、スマホを持ち車を運転する、同時代の話なんです。

 昔の伝承がそのまま現代とつながっている。琉球王朝時代からの公的巫覡(ふげき)ノロやトキ、民間霊能者としてのユタ、地域共同体の祭司カミンチュ、辻占いの三仁相、民間医療呪術ブーブー療法など、これらはおとぎ話ではない。伝承と現代が陸続きであることが、沖縄のリアリティなんです。

——いわゆる本土の怪談との違いはありますか?

(小原) たとえば、沖縄の怪談にまつわる場所って、だいたい御嶽(ウタキ)*かお墓ですよね。または、第二次大戦で死体を埋めた場所が怪談の起点になる。那覇でいうと、新都心の某区画は有名です。つまり、沖縄の怪談の特徴は、まず「御嶽を壊した、祟られた」、または「心霊スポット=御嶽に行った、おかしくなった」といった具合で始まります。それに日本兵や神様が出てきますね。何よりも民間巫者ユタが出てくるし、ユタの孫や関係者も多い。

*神々と祖霊を祀る聖域

古の呪いが現代まで続く沖縄のリアリティ 怪談作家・小原猛インタビュー(後編)の画像2
沖縄県北部にあるリュウグシン(竜宮神)/小原氏提供

 一方、本土の怪談は「呪い」「祟り」と同じ語彙を使っていても、中身が違う。自殺者の霊の話は多いけれど、イチジャマ(生霊)が飛び交ったりはしない。沖縄の怪談として、よく語られる「修学旅行生の体験」は、全体の0.1%くらいじゃないかな。

 沖縄では、新刊『耳切坊主の呪い』(竹書房)でも紹介したように、昔の呪いが今でも続いているんです。琉球王朝の歴史からひも解いても、第一尚氏と第二尚氏の末裔に、今でも会うことがある。たとえば、南城市のとある人は、第一尚氏の末裔だから「第二尚氏の末裔とは結婚しない」という暗黙の了解がある。田舎根性といえば、それまでだけど、数百年前の歴史が陸続きで日常生活の隣人となっている。現代日本では薄れてきた「家と血」の意識が強い土地なんです。

——小原さんは「沖縄怪談の第一人者」との呼び声も高いですが

(小原) そんなことないですよ。「沖縄怪談」という意味では、福地曠昭さんはじめ、偉大な先輩方が多いんです。金城唯仁、伊波南哲、喜名緑村と名を挙げれば切りがありません。沖縄ブームの仕掛人でもある仲村清司さんも『沖縄の怖い話』を出されていますし。誰もが自分の足で話を聞きに行き、御嶽を回ってユタに会って、文献を調べて書いた人たちです。こうした地道な努力が、沖縄の文化と人々の息遣いを残してきました。

 たとえば月刊沖縄社の出していた出版物には、風葬墓の写真がそのまま掲載してありました。なかなか再販されませんが、現代では、いろいろと難しいんでしょうね。

——「耳切坊主の呪い」が気になる皆さんへ

(小原) 読んでも呪われることはありませんし、わかりやすく沖縄怪談の世界を紹介しました。一般に流布した「キジムナー」の成り立ちについても明かしました。実は、よくイメージされる妖怪は「キーヌシー」という別物なんです。ぜひ手にとって読んでみてください。不思議でリアルな沖縄の世界にお連れします。そして安全な日が来たら、ぜひ沖縄を訪れてみてください。

古の呪いが現代まで続く沖縄のリアリティ 怪談作家・小原猛インタビュー(後編)の画像3
『沖縄怪談 耳切坊主の呪い』(竹書房)
古の呪いが現代まで続く沖縄のリアリティ 怪談作家・小原猛インタビュー(後編)の画像4
小原猛氏/本人提供

小原猛

1968年、京都生まれ。2011年、「琉球怪談」(ボーダーインク)で怪談作家デビュー。著書多数。映画・ドラマの設定/脚本協力など幅広い仕事を手掛ける。沖縄の歴史と神話、現在の事件・事故まで「怪談」の観点から紹介。地道で綿密な取材は「沖縄怪談の第一人者」と呼ばれるほどに定評がある。Twitter:@damdambooks

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文=神ノ國ヲ

学術論文からオカルト記事まで。
京都大学の博士課程に所属中。
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