世界の時計が全て止まったらどうなる? 社会的混乱の他にメリットも

 もしも世界中のすべての時計や時を表示するガジェットがあるタイミングで一斉に止まってしまったらこの世界はどうなるのだろうか――。

もし世界中の時計が一斉に止まったら?

 携帯電話が普及してきた頃から腕時計は必ずしも必須アイテムではなくなっているが、スマホなどを含めて時間を表示するガジェットやアイテムがあるタイミングで世界中から一斉に失われてしまった場合、現在の人類社会はどのような様相を呈するのだろうか。生理学者でライターのジェニー・エンディノ氏がウェブメディア「FIY」に寄稿した記事で興味深い考察を行っている。

 エンディノ氏によればもしそうなった場合、初期の段階で大きな社会的混乱が起こるという。確かにそれは火を見るよりも明らかである。

 電車やバス、飛行機などの公共交通機関の時刻表が意味をなさなくなり、仕事面ではアポイントメントの時刻が設定できなくなって混乱をきわめ、学校でも登校時間や時間割が次第に崩れてくる。

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画像は「Pixabay」より

 社会が大混乱に陥ることは必至だが、いつまで経っても時計が時を刻まないことを身に沁みて理解すれば、不承不承ながらも人々はその状況に適応せざるを得ない。

 そこで鍵となるのが素朴にも1日の日の出と日の入りに基づく概日(circadian)であり、それに沿った「体内時計」である。

 我々は体内時計に基づく主観的な時間感覚と、昼と夜の自然なサイクルをすり合わせながら活動を行うようになるだろう。時計が発明される以前の祖先と同じように、1日の間の光と闇のグラデーションのパターンに否応なく適応するようになる。

 そして時計のない世界では、「タイムゾーン(標準時)」という概念が意味を失い、すべてがローカルタイム(現地時間)となる。その地域ごとに日の出と日の入りに基づいて自然に時間帯が分割されていく。たとえば江戸時代のように昼と夜をそれぞれ六つに分けて「明け六つ」などの呼び名をつけ、1日のうちのだいたいの時間帯を示す共通認識を人々の間で育むようになるだろう。

 そして電話などの通信手段は依然として混乱したままで、外国などの遠く離れた場所との通信やアポイントメントが困難を極めるだろう。グローバルに活動する企業や組織は、異なる地域での活動を調整するための代替方法を見つける必要に迫られてくる。

 商取引の世界も同様に変革を迎えることになる。労働時間、請求サイクル、金融取引などのチェック体制の精度が低下することで企業は時間ベースの業務を追跡し、従業員のスケジュールを管理する新しい方法を考案しなければならない。契約交渉や期限の遵守は固定されたスケジュールではなく相互理解に依存することになり、より流動的になっていく。

 それまでのビジネスを知っていた人々にしてみればきわめて仕事がし難い環境になることは間違いないが、現実を認めてしまえばゆっくり落ち着いて仕事ができることにもなりそうだ。

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現代人にとっての“恵みの時間”に

 ここ数年で歩きスマホもすっかり常態化し、公共の場所では大多数がスマホを眺めているという事態を迎えて久しいのだが、今回の“思考実験”はスマホのない暮らしを想像してみることにも繋がる。

 興味深いことに時計のない世界は、我々の時間に対する認識の変化を促す可能性がある。 刻一刻と刻々と刻まれていく時間から解放されれば、今この瞬間に完全に没頭しやすくなるともいえる。時間という人為的なフレームから外に出て、経験に費やした時間ではなく“質”がより重視されてくるようになるのだ。我々はより“マインドフル”になれるのである。

 時計のない世界では体内リズムと直感の重要性がさらに高まり、自然の微妙な兆候を観察して、睡眠、食事、その他のさまざまな活動をいつ行うのかを決定するようになる。日々の生活を構成する上でのテクノロジーへの依存は減少し、自分自身の身体はもちろん、周囲の環境とのより深いつながりが醸成できる。

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 しかし結局のところ世の科学者たちがそれぞれ密接に協力して標準時の設定を徐々に進めていき、いずれは元通りの時間が地球を覆うようになることは想像に難くない。

 だがそうなるまでのしばらくの間は、我々にとってきわめて意義のある体験になるだろう。時計が失われた世界は我々が時間との関係を見直す好機となるからだ。

 この期間、我々は自分の内なる時間感覚と自然のリズムに敏感になり、そして対人コミュニケーションにもっと注力せざるを得なくなる。最初はそれまで慣れ親しんだ日常を混乱させるかもしれないが、我々にとって“リアル”な生活とは何か、今のこの瞬間を大切にするとはどういうことか、などを身をもって知ることのできる機会でもあるのだ。

 時計がすべて失われた世界という“思考実験”は現実には起こりそうもないことだが、週に1日、いや月に1日くらいはまったくスマホを見ない日を設けてみてもよいのだろう。

参考:「FYI」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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